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観光地に住んでいるので、よく外国人に呼び止められます。「美術館はどこですか」「バス停を教えてください」。最近はスマートフォンのおかげで、地図のアプリを使いながら、片言の英語で説明すれば何とか伝わります。でも、健康保険の仕組みとなると、つたない語学力ではお手上げです。
4月から外国人労働者の受け入れが拡大されます。初年度は、比較的簡単な仕事をする特定技能1号資格者(最長5年)が対象。取得見込みは全国で最大約4万7000人といい、さほど多いとはいえません。
ただ、大阪府で働く外国人はすでに約7万2000人(2017年10月末現在、厚生労働省発表)。東京都、愛知県に次いで多く、雇用事業所も約1万3000と全国3位です。受け皿が多い分、外国人労働者が一層、増加する可能性が高く、対応を迫られる事業所や健保組合は増えそうです。
一定期間、日本で暮らした技能実習生からの移行組は別として、新たに特定1号を取得した人が話せる日本語は「ある程度の日常会話」です。政府は、当面の送り出し国としてフィリピン、ベトナム、ネパールなど9カ国を想定。日本の国民皆保険制度を聞いたこともない人が多いでしょう。
「病気にかかっていないのに、会社に入ったらなぜお金(保険料)を払わねばならないの」。「大きな病院に行き、紹介状がないと、費用が多くかかった・・・」。「どんな手術なら健康保険で受けられるのか」。様々な疑問に的確に答えてあげるのは苦労しそうです。
政府は、外国人労働者との共生に向け、126の施策を盛り込んだ総合的対応策を策定。全国約100カ所に相談窓口を設けて多言語対応を進めることを決めました。
ただ、国会や報道では、通訳の数や日本語教育を行う機関の不足など多くの課題が挙げられています。医療関係では健康保険証を他人が悪用する「なりすまし受診」、高度医療を受ける目的で労働者を偽装して来日する可能性など、不正の発生を懸念する指摘もあります。
相談窓口や雇用事業所で答えられない疑問や手続きについて、健保組合などが連携して対応するのは言うまでもありません。
しかし、政府のバックアップは欠かせません。外国人労働者から直接、健保組合などに難しい問い合わせがあったり、不正が発覚したりした際などに、保険者が戸惑うことなく仕事が進められるような対応マニュアルを早急に整備すべきです。政府は、医療機関などで電話通訳や多言語翻訳システムの利用促進を掲げていますが、保険者に対しても同様の対策が望まれます。
約2年後には家族帯同が認められる2号資格が誕生する見込みで、5年後に外国人労働者は最大34万5150人となります。扶養者認定などを巡り、さらに複雑な問題が起こることが予想され、一層丁寧な対応が求められます。
昨年暮れ、在位中最後の記者会見に臨まれた天皇陛下のお言葉が心に残っています。
「近年、多くの外国人が我が国で働くようになりました。私どもがフィリピンやベトナムを訪問した際も、将来日本で職業に就くことを目指してその準備に励んでいる人たちと会いました。日系の人たちが各国で助けを受けながら、それぞれの社会の一員として活躍していることに思いを致しつつ、各国から我が国に来て仕事をする人々を、社会の一員として私ども皆が温かく迎えることができるよう願っています」
仕事、買い物、災害が起きた際の避難からゴミ出しまで、外国人労働者は日本社会にとけ込むため、多くの仕組みを学ぶ必要があります。健康保険制度を理解し、ルールを守ってもらうことも重要です。平成から新たな時代に入る2019年。本格的な共生社会実現のためには、外国人労働者を単なる人手ではなく、同じ社会の一員として受け入れる視点が必要です。 |
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(S・N) |
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