広報誌「かけはし」

■2018年8月 No.563

事 業 報 告 の 概 要

1.健康保険組合をめぐる情勢

 (1)医療・介護保険制度等に関する主な動き

@ 医療・介護保険制度関連法と健保連の対応
   平成29年度は、後期高齢者支援金が全面総報酬割となり拠出金が大幅に増加、また短時間労働者への適用拡大が満年度となり、健保組合は依然として厳しい財政を強いられている。高齢者の医療費に関しては、昭和58年に老人保険制度が施行され、健保組合は老人保健拠出金として初めてその一端を担うことになった。そして25年が経過した平成20年には新たな高齢者医療制度が施行され、22年には後期高齢者支援金の拠出方法が加入者割から一部総報酬割へと変更された。その後、急速に進む少子高齢化、人口構造、疾病構造の変化、医療技術の進歩により、特に高齢者の医療費が増加した。そのため、健保組合は高齢者の医療費への拠出金増加が財政危機を招き、各健保組合では必要の都度、別途積立金繰入、保険料率引き上げで対応してきたが、すでに財政的に限界にきているのが現状である。
 そのようななか、27年5月に成立した医療保険制度改革関連法では、後期高齢者の総報酬割が段階的に拡大し、29年度に全面総報酬割となった。これにより、20年当初の加入者割から比べると、年間で約2100億円支出が増加し、この10年間での拠出金総額は約30兆円にもなり、健保組合の財政を大きく揺るがす要因となっている。
 このような厳しい状況を改革するため、健保組合・健保連では、31年10月予定の消費税率引き上げの財源を高齢者医療への公費投入・拡大を目指しているが、12月に開催された政府の臨時閣議では、社会保障を全世代型に転換を図り、消費税率引き上げ分の一部を幼児教育の無償化に充てることが示されるなど、健保組合にとっては今後も厳しい状況にある。
 一方、介護保険については、健保連では、介護保険制度の持続性を高める観点から、介護給付費の重点化・適正化を求めるとともに、介護納付金の総報酬割導入に断固反対してきたが、5月に改正介護保険法が成立し、被用者保険の保険者が負担する介護納付金が、29年度から段階的に総報酬割に移行することになった。全面総報酬割の導入は、政府の財政抑制政策により、結果的に健保組合の負担が増え、財政に大きく影響を与えている。
 ところで、健保連は9月、団塊の世代がすべて75歳以上になり超高齢社会となる2025年度までの国民医療費と健保組合の財政に関する将来推計を行い、今後、国民皆保険を維持していくために必要な取り組みとして「2025年度に向けた医療・医療保険制度改革」の提言を発表した。将来推計では、国民医療費は2015年度の42兆3000億円から1.4倍の57兆8000億円に増加、後期高齢者医療費は2015年度の15兆2000億円から1.7倍の25兆4000億円に増加する。また2025年度には、健保組合の拠出金は法定給付費を上回り、危機的状況に陥る組合は全体の6割強の870組合になる。提言では、医療保険財政の安定化を最重要課題とし、高齢者医療費を支える現役世代の負担に上限を設け、高齢者にも応分の負担を求めることとし、高齢者医療費の負担構造の改革として、@拠出金負担割合に50%の上限を設定し、上限を超える部分は全額国庫負担とするA高齢者にも応分の負担を求め、後期高齢者の患者負担を段階的に2割とすべき―とした。その他に、医療費の伸びを抑制すること、健康な高齢者=「支える側」を増やすことを加えて三本の柱としている。
 健保連では、抜本的な負担構造改革等を実現すべく、政府、および国会議員への要請活動を積極的に展開するとともに、全国各地では、広く国民に訴えるイベントを開催した。
 今後、健保連大阪連合会では、31年10月の消費税率10%への引き上げに照準を合わせ、政府の31年度予算編成に向けて、健保組合全国大会で決議した「迫る超高齢社会! 皆保険の存続へ改革断行!!」を目指して、健保連本部と各健保組合とともに、各関係団体とも連携しつつ、高齢者医療制度はじめ医療保険制度の抜本改革を粘り強く訴えていくこととしている。
A 政府が「骨太方針2017」など3計画を決定
   政府は6月、「経済財政運営と改革の基本方針2017(骨太方針2017)」を決定した。骨太方針では、経済・財政一体改革の推進をもとに、社会保障費支出の伸びを3年間で1.5兆円に抑えることを継続、28、29年度予算に続いて30年度も5000億円の伸びに抑えるとともに、基礎的財政収支黒字化という財政健全化目標の継続も示されている。その他「未来投資戦略2017」では、ビッグデータやAI、ロボットなどの技術を取り入れ、健康経営などの取り組みに向けた健康・医療・介護の一体的な施策が示されている。また、社会経済構造の変化に対応するための具体策「規制改革実施計画」では、社会保険診療報酬支払基金の改革や、新薬の処方日数制限の見直しなどを進めることを決定した。
B 未来投資戦略2017
   政府が6月に決定した「未来投資戦略2017」では、予防・健康づくり等に向けた加入者の行動変容を促す保険者の取り組みを推進するため、保険者に対するインセンティブを強化するとしている。健保組合には後期高齢者支援金の加算・減算制度について、加算率、減算率ともに、来年度から段階的に引き上げて、2020年度には最大で法定上限の10%まで引き上げられる。評価指標は、特定健診・特定保健指導の実施率に加え、がん検診、歯科健診の実施状況やICT等を活用して、本人に分かりやすく健診結果の情報提供を行うこと等を追加することで、予防・健康づくりなど医療費適正化に資する多様な取り組みをバランスよく評価する。また、保険者の責任を明確にするため、全保険者の特定健診・特定保健指導の実施率を29年度実績から公表し、開示を強化することとなっている。
支払基金の組織、体制を抜本的に見直すこと等が示されている。
C 健康経営優良法人認定
   30年2月、日本健康会議が企業・団体を認定する健康経営優良法人には、「大規模法人部門(ホワイト500)」で541法人、「中小規模法人部門」で776法人が認定された。認定にあたっては、保険者と連携した健康経営の実践が重視されており、今回は、健康保険組合も6組合が認定された。企業における健康づくりへの重要性が高まり、医療保険者と企業の健康づくりへのコラボが推進され、健康に対する意識の向上が期待される。
D 平成30年度診療報酬改定
   政府は30年度診療報酬改定における改定率を、診療報酬全体で1.19%引き下げることとした。内訳では、診療報酬本体引き上げ分は0.55%、薬価等の引き下げ分が1.74%で、差引全体の改定率は1.19%の引き下げとなった。今回の改定では、薬価のマイナス部分を本体に充当せず、国民へ還元すべきとした健保連の要求は示されなかった。改定の基本方針は、地域包括ケアシステムの構築と、医療機能の分化・強化、連携の推進が重点課題に位置づけされている。また、介護報酬については0.54%の引き上げ改定となった。
E 人づくり革命・生産性革命の政策パッケージ
   政府は12月の臨時閣議で、「人づくり革命」と「生産性革命」の二本柱からなる「新しい経済政策パッケージ」を決定した。人づくり革命では、幼児教育の無償化など子育て支援や介護人材の処遇改善などを実施し、全世代型社会保障への転換を図る。幼児教育は3〜5歳の幼稚園、保育園、認定こども園にかかる費用を無償化することなどが挙げられている。これら人づくり革命の施策に2兆円規模の費用を投入し、財源は31年10月の消費税率10%への引き上げに伴う税収5兆円を見込んで、残る税収は従来の医療・年金・介護や財政再建に充てることとしている。一方、生産性革命では、健康・医療・介護の分野で、医療保険の被保険者番号の現行の世帯単位から個人単位化に変更し、マイナンバー制度のインフラを活用して、資格情報等のデータを一元管理する仕組みを検討することが決まった。

 (2)健保組合・健保連関連の主な動き

@ 健康強調月間の行事を実施
   平成29年10月、健康強調月間の諸行事を実施した。今回の強調月間では、スローガンを「あなたの健康が次世代の財産に」とした。健康づくりに関する各種事業の実施を通じて、健保組合加入者の健康の保持・増進を図る。29年度は、特に健康無関心層の掘り起こしにより健康づくりの裾野を拡大し、国民全体の健康意識を高め、「健康寿命の延伸」につながることを目指し、改めて「生活習慣病予防」の大切さを訴えた。
A 平成29年度健保組合全国大会を開催
   11月28日、東京国際フォーラムで「迫る超高齢社会! 皆保険の存続へ改革断行!!」をテーマに、健保組合全国大会を開催した。大会では、@拠出金負担に50%の上限、現役世代の負担に歯止めをA高齢者医療費の負担構造改革の早期実現B実効ある医療費適正化対策の確実な実施C生涯現役社会を目指し、保健事業等の積極的な推進―の4項目をスローガンに掲げ、健保組合・健保連の主張を内外にアピール。大塚健保連会長から加藤厚生労働相に大会の決議と要請書を手渡し、必要な改革を早急に実行するよう求めた。
B 「データヘルス計画」の推進
   平成27年に第1期データヘルス計画が始まり3年目を迎えた。データヘルス計画は、健保組合が保有する加入者の特定健診データやレセプトデータを活用し、PDCAサイクルに沿って効果的・効率的に保健事業をするための計画。29年度は、健保組合では事業所とのコラボヘルスを中心とした保健事業を実施するとともに、28年に厚生労働省から示された個々の健保組合のアドバイスシートをもとに事業の棚卸しを行った。データ分析による現状把握、コラボヘルスの体制、事業目標および評価指標の設定での効果検証、見直しが行われた。30年度から第2期データヘルス計画がスタートすること、また、特定健診・特定保健指導が第3期に移行するため、健保連は健保組合の第2期データヘルス計画の実施に向けて研修会を開催するなど積極的な支援を図った。
C 「マイナンバー制度」の運用
   平成29年7月、マイナンバーを利用した情報連携が実施された。しかし、各健保組合での運用にはまだまだ問題点も多く時間がかかる。今後、健保連としても制度の問題点として、健保組合にとって現時点では費用対効果が十分とは言いがたく、メリットが極めて少ない中間サーバーの維持、管理の費用問題など、多くの課題を専門の委員会等を設置して検討していかなければならない。

 (3)健保組合の状況

@ 健保組合数
   健保組合数は、平成29年4月1日現在、1398組合となっている。健保組合数はピーク時より429組合減少しており、財政状況の厳しさを如実に表している。なお、30年4月1日では1389組合で、9組合減少している。
A 平成29年度健保組合予算概要
   経常収支は、3060億円の赤字となった。赤字組合は1015組合で7割超の組合が赤字の状況である。保険料率の引き上げ組合が214組合となっている。また、保険料収入に対する拠出金等の割合は44.54%で、この割合が50%以上の組合は331組合となっており、厳しい状況が続いている。
B 平成28年度健保組合決算概要
   経常収支は3年連続の黒字となり、経常収支黒字額は2373億円となった。これは、被保険者数の増加や収入確保のため206組合が保険料率を引き上げたこと、また、診療報酬のマイナス改定による支出の伸びが一時的に鈍化した影響によるものである。しかし、高齢者医療への拠出金は前年度比0.24%増加し、3兆2819億円にもなっている。

2.大阪連合会の事業活動概要

 大阪連合会では、29年度をとおして理事会、各委員会で時宜に応じた活発な論議を展開、円滑な事業運営に資するための各種事業を実施した。特に、高齢者医療制度改革については、関係各方面に理解と支援を強く要請。そして、増大する医療費適正化への取り組みとして、2回目となる「あしたの健康保険、だいじょうぶ? 健康みらいトークin大阪」を29年7月29日に開催し、多くの参加者のもと所期の目的を達成することができた。

 (1) 平成29年度健保組合予算(大阪分)集計

 大阪166組合の29年度予算では、経常収支は337億円の赤字で、122組合73.5%が赤字組合となった。対前年度予算比では、保険料収入に対する拠出金の割合は1.78ポイント増加して43.99%であった。平均保険料率は0.067%上昇して9.261%、また、実質保険料率は0.131%上昇し9.68%となり、依然厳しい財政状況である。

 (2) 28年度健保組合決算見込(大阪分)集計

 大阪166組合の28年度決算見込では、経常収支は218億円の黒字であったが、65組合、39.2%が赤字組合である。対前年度決算比では、保険料収入に対する拠出金の割合は0.06ポイント縮小して41.33%。平均保険料率は0.043%上昇して9.182%。また、実質保険料率は0.121%下がり8.883%となったが、組合の財政状況は厳しい状況が続いている。

 (3) 広報活動(広報委員会関係)

 機関誌「かけはし」およびホームページを通じ、高齢者医療制度改革、介護保険制度改革、柔道整復施術等関係情報、健康づくり情報など、健保組合をめぐる情勢および健保連の考え方や各種情報を掲載するとともに、大阪連合会の総会・理事会・委員会・地区会活動など、主要な事業の広報活動に務めた。

 (4) 組合業務支援活動(組合業務委員会関係)

 健保組合役職員の資質向上と連帯感の醸成に有効な、初任者実務講習会、組合業務別実務講習会、パソコン研修会、情報セキュリティ講習会、事務長・中堅職員等研修会、個人情報保護研修会を開催した。

 (5) 医療費適正化対策活動(医療給付委員会関係)

 歯科レセプト点検事務研修会、求償事務研修会、柔道整復等療養費適正化講習会やレセプト相談・法律相談等の諸事業を実施。医療費適正化対策の推進を図り、会員組合の財政健全化を支援。また、支払基金との事務連絡協議会を通じて、審査等における問題点の是正を要請した。

 (6) 健康開発共同事業推進活動(保健共同事業委員会関係)

 生活習慣病の予防と対策、がん対策、メンタルヘルス対策等をテーマに健康教育を実施したほか、普通救命講習会(AED)を開催した。また、保養施設の共同利用の契約、プール施設・アイススケート施設の利用券の斡旋、各種イベントの後援等、多方面での活動を行った。保健師活動では、健保組合における特定保健指導を支援するとともに、保健師連絡協議会での保健活動を支援した。

 (7) 総合組合活動(総合組合委員会関係)

 総合組合の運営に資するため、特定健診の受診状況や財政状況分析、健康経営など調査・研究し、有効活用を図った。


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