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医療・介護保険制度関連法と健保連の対応 |
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平成29年度は、後期高齢者支援金が全面総報酬割となり拠出金が大幅に増加、また短時間労働者への適用拡大が満年度となり、健保組合は依然として厳しい財政を強いられている。高齢者の医療費に関しては、昭和58年に老人保険制度が施行され、健保組合は老人保健拠出金として初めてその一端を担うことになった。そして25年が経過した平成20年には新たな高齢者医療制度が施行され、22年には後期高齢者支援金の拠出方法が加入者割から一部総報酬割へと変更された。その後、急速に進む少子高齢化、人口構造、疾病構造の変化、医療技術の進歩により、特に高齢者の医療費が増加した。そのため、健保組合は高齢者の医療費への拠出金増加が財政危機を招き、各健保組合では必要の都度、別途積立金繰入、保険料率引き上げで対応してきたが、すでに財政的に限界にきているのが現状である。
そのようななか、27年5月に成立した医療保険制度改革関連法では、後期高齢者の総報酬割が段階的に拡大し、29年度に全面総報酬割となった。これにより、20年当初の加入者割から比べると、年間で約2100億円支出が増加し、この10年間での拠出金総額は約30兆円にもなり、健保組合の財政を大きく揺るがす要因となっている。
このような厳しい状況を改革するため、健保組合・健保連では、31年10月予定の消費税率引き上げの財源を高齢者医療への公費投入・拡大を目指しているが、12月に開催された政府の臨時閣議では、社会保障を全世代型に転換を図り、消費税率引き上げ分の一部を幼児教育の無償化に充てることが示されるなど、健保組合にとっては今後も厳しい状況にある。
一方、介護保険については、健保連では、介護保険制度の持続性を高める観点から、介護給付費の重点化・適正化を求めるとともに、介護納付金の総報酬割導入に断固反対してきたが、5月に改正介護保険法が成立し、被用者保険の保険者が負担する介護納付金が、29年度から段階的に総報酬割に移行することになった。全面総報酬割の導入は、政府の財政抑制政策により、結果的に健保組合の負担が増え、財政に大きく影響を与えている。
ところで、健保連は9月、団塊の世代がすべて75歳以上になり超高齢社会となる2025年度までの国民医療費と健保組合の財政に関する将来推計を行い、今後、国民皆保険を維持していくために必要な取り組みとして「2025年度に向けた医療・医療保険制度改革」の提言を発表した。将来推計では、国民医療費は2015年度の42兆3000億円から1.4倍の57兆8000億円に増加、後期高齢者医療費は2015年度の15兆2000億円から1.7倍の25兆4000億円に増加する。また2025年度には、健保組合の拠出金は法定給付費を上回り、危機的状況に陥る組合は全体の6割強の870組合になる。提言では、医療保険財政の安定化を最重要課題とし、高齢者医療費を支える現役世代の負担に上限を設け、高齢者にも応分の負担を求めることとし、高齢者医療費の負担構造の改革として、@拠出金負担割合に50%の上限を設定し、上限を超える部分は全額国庫負担とするA高齢者にも応分の負担を求め、後期高齢者の患者負担を段階的に2割とすべき―とした。その他に、医療費の伸びを抑制すること、健康な高齢者=「支える側」を増やすことを加えて三本の柱としている。
健保連では、抜本的な負担構造改革等を実現すべく、政府、および国会議員への要請活動を積極的に展開するとともに、全国各地では、広く国民に訴えるイベントを開催した。
今後、健保連大阪連合会では、31年10月の消費税率10%への引き上げに照準を合わせ、政府の31年度予算編成に向けて、健保組合全国大会で決議した「迫る超高齢社会! 皆保険の存続へ改革断行!!」を目指して、健保連本部と各健保組合とともに、各関係団体とも連携しつつ、高齢者医療制度はじめ医療保険制度の抜本改革を粘り強く訴えていくこととしている。 |
A |
政府が「骨太方針2017」など3計画を決定 |
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政府は6月、「経済財政運営と改革の基本方針2017(骨太方針2017)」を決定した。骨太方針では、経済・財政一体改革の推進をもとに、社会保障費支出の伸びを3年間で1.5兆円に抑えることを継続、28、29年度予算に続いて30年度も5000億円の伸びに抑えるとともに、基礎的財政収支黒字化という財政健全化目標の継続も示されている。その他「未来投資戦略2017」では、ビッグデータやAI、ロボットなどの技術を取り入れ、健康経営などの取り組みに向けた健康・医療・介護の一体的な施策が示されている。また、社会経済構造の変化に対応するための具体策「規制改革実施計画」では、社会保険診療報酬支払基金の改革や、新薬の処方日数制限の見直しなどを進めることを決定した。 |
B |
未来投資戦略2017 |
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政府が6月に決定した「未来投資戦略2017」では、予防・健康づくり等に向けた加入者の行動変容を促す保険者の取り組みを推進するため、保険者に対するインセンティブを強化するとしている。健保組合には後期高齢者支援金の加算・減算制度について、加算率、減算率ともに、来年度から段階的に引き上げて、2020年度には最大で法定上限の10%まで引き上げられる。評価指標は、特定健診・特定保健指導の実施率に加え、がん検診、歯科健診の実施状況やICT等を活用して、本人に分かりやすく健診結果の情報提供を行うこと等を追加することで、予防・健康づくりなど医療費適正化に資する多様な取り組みをバランスよく評価する。また、保険者の責任を明確にするため、全保険者の特定健診・特定保健指導の実施率を29年度実績から公表し、開示を強化することとなっている。
支払基金の組織、体制を抜本的に見直すこと等が示されている。 |
C |
健康経営優良法人認定 |
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30年2月、日本健康会議が企業・団体を認定する健康経営優良法人には、「大規模法人部門(ホワイト500)」で541法人、「中小規模法人部門」で776法人が認定された。認定にあたっては、保険者と連携した健康経営の実践が重視されており、今回は、健康保険組合も6組合が認定された。企業における健康づくりへの重要性が高まり、医療保険者と企業の健康づくりへのコラボが推進され、健康に対する意識の向上が期待される。 |
D |
平成30年度診療報酬改定 |
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政府は30年度診療報酬改定における改定率を、診療報酬全体で1.19%引き下げることとした。内訳では、診療報酬本体引き上げ分は0.55%、薬価等の引き下げ分が1.74%で、差引全体の改定率は1.19%の引き下げとなった。今回の改定では、薬価のマイナス部分を本体に充当せず、国民へ還元すべきとした健保連の要求は示されなかった。改定の基本方針は、地域包括ケアシステムの構築と、医療機能の分化・強化、連携の推進が重点課題に位置づけされている。また、介護報酬については0.54%の引き上げ改定となった。 |
E |
人づくり革命・生産性革命の政策パッケージ |
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政府は12月の臨時閣議で、「人づくり革命」と「生産性革命」の二本柱からなる「新しい経済政策パッケージ」を決定した。人づくり革命では、幼児教育の無償化など子育て支援や介護人材の処遇改善などを実施し、全世代型社会保障への転換を図る。幼児教育は3〜5歳の幼稚園、保育園、認定こども園にかかる費用を無償化することなどが挙げられている。これら人づくり革命の施策に2兆円規模の費用を投入し、財源は31年10月の消費税率10%への引き上げに伴う税収5兆円を見込んで、残る税収は従来の医療・年金・介護や財政再建に充てることとしている。一方、生産性革命では、健康・医療・介護の分野で、医療保険の被保険者番号の現行の世帯単位から個人単位化に変更し、マイナンバー制度のインフラを活用して、資格情報等のデータを一元管理する仕組みを検討することが決まった。 |