広報誌「かけはし」

■2017年8月 No.551

事 業 報 告 の 概 要

1.健康保険組合をめぐる情勢

 (1)医療・介護保険制度等に関する主な動き

@ 医療・介護保険制度関連法と健保連の対応
   平成28年度は、27年5月に成立した医療保険制度改革関連法に基づく後期高齢者支援金が3分の2総報酬割へと拡大し拠出金が増加、また10月の短時間労働者への適用拡大もあり、健保組合は引き続き厳しい財政を強いられている。医療費については、診療報酬改定が全体で0.84%引き下げられるなどの効果もあり大きな伸びとはなっていないが、総額40兆円を超える国民医療費は毎年1兆円規模で増え続け団塊の世代がすべて後期高齢者になる37年には50兆円以上と予測されている。
 28年7月の社会保障審議会における医療保険部会や介護保険部会では、経済財政諮問会議がまとめた経済、財政再生計画と改革工程表に基づき医療保険、介護保険の見直しについて議論が開始され、医療保険部会では29年度の予算関連法案のなかで、高額療養費の見直しとして70歳以上の高齢世代についての負担限度額の見直し等が決定した。また、介護保険部会では、@地域包括ケアシステムの深化・推進、A介護保険制度の持続可能性の確保に関する事項等が議論された。最終的には、29年度予算関連法案として、被用者保険の保険者(現役世代)が負担する介護納付金を29年度から段階的に総報酬割に移行することとし、32年度には全面総報酬割とすること、その他介護保険利用者の現役並み所得者の自己負担割合を3割に増やすこと等の介護保険法等改正案が、29年5月通常国会において成立した。
 健保連は、介護保険制度の持続性を高める観点から、介護給付費の重点化・適正化を求めるとともに介護納付金の総報酬割導入に断固反対してきたが、法案は政府案どおりに成立した。介護保険制度が施行された平成12年には3兆円程度であった費用も、高齢化に伴い、いまでは10兆円を超える規模となり、健保組合では全面総報酬割になればさらに1100億円の負担増になり、極めて厳しい財政運営が避けられないのが現状である。
 高齢者医療費の増加抑制や、抜本的な負担構造改革等を実現すべく、健保連では、政府、および国会議員への要請活動を積極的に展開するとともに、昨年同様大阪をはじめ全国各地では、広く国民に訴えるイベントを開催した。
 今後、政府の30年度予算編成そして30年の診療報酬、介護報酬の同時改定、第7次医療計画などが控えており、健保組合としても、第2期データヘルス計画、第3期特定健診・特定保健指導の取り組みが必要である。健保連大阪連合会では健保組合全国大会で決議した「改革の早期実現! 次世代への安心・納得の確保」をめざして、健保連本部と各健保組合とともに各関係団体と連携しつつ、高齢者医療制度はじめ医療保険制度の抜本改革を粘り強く訴えていくこととしている。
A 政府が「骨太の方針2016」など4計画を決定
   政府は6月、「経済財政運営と改革の基本方針2016(骨太の方針2016)」を決定した。そのなかで消費税率の引き上げを平成31年10月に2年半再延期することとした。また、骨太の方針2015で決定した政府予算の社会保障費支出の伸びを3年間で1.5兆円に抑えることを継続するとともに、32年度の基礎的財政収支黒字化という財政健全化目標を改めて示した。その他産業政策の柱となる「日本再興戦略」、社会経済構造の変化に対応するための具体策「規制改革実施計画」、経済の好循環をもたらすための社会政策を定めた「ニッポン一億総活躍プラン」を決定した。いずれも、医療や介護分野でICTやビッグデータの活用を進める内容が含まれている。
B 規制改革実施計画
   政府が6月に決定した「規制改革実施計画」には、健康・医療分野で「国民の利便性向上」「医療や福祉産業の発展による経済の活性化」「保険財政の健全化」を基本に、診療報酬の審査の効率化と統一性の確保に向け、社会保険診療報酬支払基金の組織、体制を抜本的に見直すこと等が示されている。
C 健康経営優良法人認定制度創設
   28年11月、政府の日本再興戦略に基づき「従業員等の健康管理を経営的な視点で考え、戦略的に取り組んでいる法人」として社会的に評価を受ける環境を整備するため健康経営優良法人認定制度が創設された。健康経営優良法人は、「大規模法人部門(ホワイト500)」と「中小規模法人部門」に分け、日本健康会議が企業・団体を認定する。認定にあたっては、保険者と連携した健康経営の実践が重視されており、29年2月には大規模235法人と中小規模95法人の合計330法人が初めて「健康経営優良法人」として認定された。企業における健康づくりへの重要性が高まり、医療保険者と企業の健康づくりへのコラボが推進され、健康に対する意識の向上が期待される。
D 平成28年度診療報酬改定
   政府は28年度診療報酬改定における改定率を、診療報酬全体で0.84%引き下げることとした。マイナス改定は8年ぶりで、内訳は診療報酬全体引き上げ分は0.49%、薬価等の引き下げ分が△1.33%で、差引全体で改定率は0.84%の引き下げとなった。今回の改定には、2025年に向けて、地域包括ケアシステムの推進と医療機能の機能分化、強化、連携に関する充実に取り組むことが盛り込まれている。
E 厚生労働省の医療計画検討会が初会合
   厚生労働省の「医療計画の見直し等に関する検討会」が28年5月開催された。30年度からの第7次医療計画の作成指針に関して二次医療圏の設定や基準病床数制度の在り方などを検討する。医療計画は、医療法に基づき、都道府県が医療提供体制の確保を図るために策定するもので、医療費の動向を大きく左右するため、健保連では医療提供体制の諸問題に関する考え方を整理し、その動向を注視している。都道府県が策定する地域医療構想は、医療機能ごとに2025年の医療需要の病床の必要量を推計し定めるもので、医療保険者も保険者協議会を通じて参画し、持続可能な医療提供体制の構築に向けた積極的な提言を行っていくこととしている。

 (2)健保組合・健保連関連の主な動き

@ 健康強調月間の行事を実施
   平成28年10月、健康強調月間の諸行事を実施した。健保組合が保健事業に取り組むうえで、健康の保持・増進、体力づくり事業は大切な事業であり、今回の強調月間では、スローガンを「未来の自分に健康宣言〜あなたの意識が変える健康寿命〜」とした。健康寿命の延伸を目標に掲げ、加入者一人ひとりが自ら生活習慣を見直し、行動へと移していくことをめざし、健康意識を高め、健康習慣を改めて見直していく大切さを訴えた。
A 平成28年度健保組合全国大会を開催
   11月29日、東京国際フォーラムで「改革の早期実現! 次世代へ安心・納得の確保を!」を副呼称に、健保組合全国大会を開催した。大会では、@高齢者医療費の負担構造改革の早期実現、A皆保険の堅持に向けた健保組合の維持・発展、B実効ある医療費適正化対策の確実な実施、C現役世代が納得できる介護保険制度の実現―の4項目をスローガンに掲げ、健保組合・健保連の主張を内外にアピール。大塚健保連会長から塩崎厚生労働相に大会の決議と要請書を手渡し、必要な改革を早急に実行するよう求めた。
B 「データヘルス」の推進
   「データヘルス」が本格実施され2年目を迎えた。データヘルスは、加入者の健康保持・増進のために健保組合などが、健診やレセプト等のデータを活用・分析、PDCAサイクルで回すことにより、目標値および健康課題を明確にして、効果的、効率的な保健事業を行うものである。28年度は厚生労働省から各健保組合でデータヘルスに関するアドバイスシートによる個々の健保組合の特徴と今後の取り組み等が示された。特に実施にあたっては事業主とのコラボヘルスが重要であり、健保連は健保組合のデータヘルス実施の支援を積極的に図った。
C 「マイナンバー制度」の推進
   平成28年1月から開始されたマイナンバー制度では、マイナンバーを利用した情報連携が実施される29年7月に向けて、各健保組合で準備作業が行われた。健保連大阪連合会としても、制度の疑問点を踏まえた説明会を実施するなど、健保組合に対する支援を図った。しかし、中間サーバーの維持、管理の費用問題など、実施に向け多くの課題が残っている。

 (3)健保組合の状況

@ 健保組合数
   健保組合数は、平成28年4月1日現在、1399組合となっている。健保組合数はピーク時より428組合減少しており、財政状況の厳しさを如実に表している。なお29年4月1日では1398組合で1組合減少している。
A 平成28年度健保組合予算概要
   経常収支は、1384億円の赤字となった。保険料率の引き上げ組合が215組合もありながら、なお赤字となっている。また、保険料収入に対する拠出金等の割合は42.78%で、この割合が50%以上の組合は254組合となっており、厳しい状況が続いている。
B 平成27年度健保組合決算概要
   経常収支は26年度に続き黒字となり、経常収支黒字額は1278億円となった。しかし、収入確保のため313組合が保険料率を引き上げた結果によるものであった。また、高齢者医療への拠出金は、前年度比0.16%減少したが、3兆2742億円にもなっている。

2.大阪連合会の事業活動概要

 大阪連合会では、28年度を通して理事会、各委員会で時宜に応じた活発な論議を展開、円滑な事業運営に資するための各種事業を実施した。特に、高齢者医療制度改革における公費拡充については、関係各方面に理解と支援を強く要請。そして、増大する医療費の適正化への取り組みとして「健康みらいトークin大阪」を28年5月22日に開催し、多くの参加者のもと所期の目的を達成することができた。

 (1) 平成28年度健保組合予算(大阪分)集計

 大阪166組合の28年度予算では、経常収支は215億円の赤字で、110組合、66.3%が赤字組合となった。対前年度予算比では保険料収入に対する拠出金の割合は0.10ポイント縮小して42・21%であったものの、平均保険料率は0.044%上昇して9.194%、また、実質保険料率は0.035%上昇し9.549%となり、いぜん厳しい財政状況である。

 (2) 平成27年度健保組合決算見込(大阪分)集計

 大阪166組合の27年度決算見込みでは、経常収支は148億円の黒字であったが、75組合、45.2%が赤字組合である。対前年度決算比では、保険料収入に対する拠出金の割合は1.06ポイント縮小して41.39%。平均保険料率は0.155%上昇して9.139%、また、実質保険料率は0.009%下がり9.004%となったが、組合の財政状況は厳しい状況が続いている。

 (3) 広報活動(広報委員会関係)

 機関誌「かけはし」および「ホームページ」を通じ、高齢者医療制度改革、介護保険制度改革、柔道整復施術等関係情報、健康づくり情報など、健保組合をめぐる情勢および健保連の考え方や各種情報を掲載するとともに、大阪連合会の総会・理事会・委員会・地区会活動など、主要な事業の広報活動に努めた。

 (4) 組合業務支援活動(組合業務委員会関係)

 健保組合役職員の資質向上と連帯感の醸成に有効な、初任者実務講習会、組合業務別実務講習会パソコン研修会、事務長・中堅職員等研修会、個人情報保護研修会、後発医薬品に関する講習会、マイナンバー制度に関する研修会を開催した。

 (5) 医療費適正化対策活動(医療給付委員会関係)

 歯科レセプト点検事務研修会、求償事務研修会、柔道整復等療養費適正化講習会やレセプト相談・法律相談等の諸事業を実施。医療費適正化対策の推進を図り、会員組合の財政健全化を支援。また、支払基金との事務連絡協議会を通じて、審査等における問題点の是正を要請した。

 (6) 健康開発共同事業推進活動(保健共同事業委員会関係)

 生活習慣病の予防と対策、がん対策、メンタルヘルス対策等をテーマに健康教育を実施したほか、普通救命講習会(AED)を開催した。また、契約保養所・プール施設の利用促進、各種イベントの後援や協賛等、多方面からの推進を図った。保健師活動では、健保組合における特定保健指導を支援するとともに、保健師連絡協議会での保健活動を支援した。

 (7) 総合組合活動(総合組合委員会関係)

 総合組合の運営に資するため、特定健診の受診状況や財政状況分析など調査・研究し、有効活用を図った。


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