広報誌「かけはし」

■2017年8月 No.551


医療経済学から見る健康保険組合の課題

―これから大きくなる保険者の役割―

 5月25日、大阪商工会議所で健康教室を開催。京都大学大学院 医学研究科 医療経済学分野 教授 今中 雄一氏が「医療経済学から見る健康保険組合の課題―これから大きくなる保険者の役割―」をテーマに講演されました。参加数は、59組合・77人。(以下に講演要旨)

 

今中 雄一 氏
医療制度改革と保険者の役割
 超少子高齢社会が進展し、限られた財源と資源のもと、医療の制度改革は必至である。この制度改革の進行において、患者、医療提供者、そして医療システムを構成する第三のプレイヤーとしての「保険者の役割」は、ますます大きくなる。
 そもそも、保険者の役割には、以下がありえる。1)保険料を集め管理し償還することを通じ、被保険者の医療サービスの利用を保証する。 2)健康を守るべく疾病予防、健診、保健指導を行う。3) 医療の利用をよりよくするべく、被保険者を支援する。4) 医療の質と効率を高めるべく医療提供者にアプローチする。5) 医療システムの再構築に重要関係者として主体的に加わる。とくに、詳細で悉皆的(しっかいてき)な診療報酬請求データを基盤に医療の「見える化」を推進できるポジションにある。
 医療制度改革において、医療の質や効率を「見える化」することが必須である。見えることで初めて、系統だった評価と改善が、そして制度改革が可能となる。
医療機関と地域レベルのパフォーマンスの可視化
 医療の質の指標化としては、エビデンスに基づく推奨にどの程度沿っているか、必要な治療が受けられているか、といったプロセスの指標や、疾患ごとの院内死亡率や治療の成功率といった短期のアウトカムの指標も重要である。後者は患者のリスクの影響を大きく受けるので、精度の高いリスク調整を統計学的に行う必要があるが、すでにいくつかの疾患領域で可能となっている。
 これらの質の指標は、医療機関レベルで先行し、加えて地域レベルでも算出されるようになってきており、それゆえに地域格差も見えてきている。地域レベルの医療の質の指標は、限られた資源で最大のパフォーマンスをめざす地域医療システムの向上に、非常に役立つ情報となると期待される。

情報の共有と協働
 地域の実態が見える化され、ステークホルダー間で共有されれば、地域の各診療やケアのパフォーマンスを上げるべく、拠点形成と連携ネットワークの強化、あるいはアクセスを遍(あまね)く確保する体制強化を検討し、推進する基盤となる。次に、限られた財源資源のなかで、医療システムの効率や成果を高めていく、まさに経営していくことが求められる。
 しかし、地域医療介護システムの経営者は存在しない。そこで、全ステークホルダー即ち、医療介護提供者や行政、保険者のみならず、企業や市民がともに考え協働して進めて行くこと。そして、経済産業政策、交通、住宅、教育、まちづくりなど包括的な視野で関連政策と相互に強調しながら、新たな制度やシステムを実現していくことが、ますます重要となってくる。
 行政、医療者、保険者、医療団体、生活関係産業、市民と一体となって、課題の認識と目標を共有し、共同で経営する仕組みが必要であろう。これは、われわれが呼ぶところの社会的協働である。そのなかで、貴重なデータベースと被保険者への直接ルートをもつ保険者の役割は、ますます重要となっていくであろう。
risk pooling; safety net
Social Joint Venture
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