 |
マインドフルネスの理論と実践
―ストレス低減と豊かな人間関係のために― |
12月1日、大阪商工会議所で心の健康講座を開催。関西学院大学 人間福祉学部 社会福祉学科 教授 池埜 聡氏が「マインドフルネスの理論と実践―ストレス低減と豊かな人間関係のために―」をテーマに講演されました。参加数は、43組合・60人(以下に講演要旨)。 |
 |
|
 |
|
池埜 聡 氏 |
今回の講演では、ストレス低減法として近年急速に注目を集めている「マインドフルネス」を取り上げ、その効果機序と実践方法についてお話ししました。マインドフルネスは、パーリ語のサティ(Sati)の英訳であり、「心にとどめておくこと」「気づき」と訳されます。
マインドフルネスは、主に東南アジアやスリランカ地域に根ざすテーラワーダ(上座部)仏教の瞑想法に由来します。定義としては、「今、この瞬間の体験に意図的に意識を向け、 評価をせずに、とらわれのない状態で、ただ観ること」と表されます。
多忙を極める現代社会。私たちは多くの時間を「することモード(Doing
Mode)」に費やし、やるべきことやゴールに支配される生活を余儀なくされていないでしょうか。
「することモード」のみに心がいってしまうと、「今、この瞬間」は常に「目標が達成されていない状態」となります。それは不満足感がつきまとい、いわゆる「ストレス」の慢性化へとつながります。
一方、日常のなかに「あることモード(Being
Mode)」、すなわち、「今、この瞬間」に心を満たし、五感を通じて豊かな心身の移り変わりを感受していく時間をもつことで、Doingによるストレスから心のスペースを空けることができます。
マインドフルネスは、DoingからBeingへの「心のギアチェンジ」を可能にする有効な方法となるのです。
今日、欧米においてマインドフルネスは、ストレス低減のみならず、うつの再発予防、疼痛コントロール、注意力向上、衝動性抑制、依存症治療といった健康増進、そしてリーダーシップの涵養や豊かな人間関係づくりなどを目的として、教育やビジネスにも積極的に取り入れられています。その背景には、2000年以降の脳科学研究による支えがあります。
マインドフルネス瞑想を続けていくと、脳の構造が変わります。衝動抑制につながる内側前頭前皮質、身体感覚を察知する島皮質、そして記憶にかかわる海馬などの容積が増し、機能の向上が期待されています。
さらに近年の研究から、マインドフルネスは肯定的な感情や幸福感の涵養にも役立つことがわかってきました。人の苦しみを取り除きたいという慈愛の感情(コンパッション)、そして自分のことを人と比較せず、その不完全さを受容して温かく迎え入れる感情(セルフ・コンパッション)を育てる方法もマインドフルネスは示唆してくれます。
ストレスに支配されず、心のスペースを設け、今、この瞬間への気づきを耕すことで本来の自分の心を取り戻し、豊かな人間関係と幸福の意味を見いだす手助けとなるマインドフルネス。今回の講演は、皆様にとってその深遠さへの入り口となることができれば幸いです。 |
|
 |