広報誌「かけはし」

■2016年11月 No.542
時評

「ゆでガエル」 保険者再編を考える


 「ゆでガエル」のたとえ話がある。熱いお湯にカエルを入れると飛び出し逃げ出してしまうが、ぬるま湯にカエルを入れて、徐々に温度を上げていくと気づかない。お湯が熱くなっているのに、まだ大丈夫とタカをくくっているうちに体力を奪われ、もう手遅れとなり茹で上がってしまう。
 本当かウソかは別にして、周りの環境や危機的な変化を見過ごしていると、遅きに失してしまうというたとえ話のひとつである。
 今年の春頃から、塩崎厚労大臣が健保組合の保険者再編の声をあげている。発言の趣旨は、ICT時代にふさわしいデータヘルスの横展開を行い、予防を含めた医療の質や持続性の向上のためであるとも、保険者機能を抜本的に強化していくためともしている。
 また、健保組合の保険者再編は、一定規模のビッグデータが必要であるためであるとも、分析のノウハウやそれを支えるだけの財政力が必要であるともしている。
 外国の例、とくにドイツの保険者再編を持ち出している。ドイツ疾病金庫は現在、1カ所あたり約40万人の平均加入者となっており、保険者数は1223であったものを124に集約したという。仕組みや経緯は異なるのだが、日本の健保組合は保険者として小さすぎ、データヘルス時代にはふさわしくないとも取れる発言をしている。
 日本の保険者再編を紐解くと、さかのぼること10年前、医療保険の構造改革のなかで打ち出されたものであったように思う。現在までに、その路線に従って、すでに全国で1つという巨大な保険者であった政府管掌健康保険は協会けんぽとなり、都道府県単位に保険料率を設定するなど、運営が再編されている。
 また、国民健康保険も市町村という小さい単位の保険者であったが、再来年度から広域化の名のもとに都道府県化、つまり47保険者に再編されることとなったのである。あと残されたのは、健保組合ということなのだろうか。
 しかし、10年前に考えられていた健保組合の再編は、財政運営の厳しい健保組合を業種にとらわれない地域型健保へ合併・統合するというものであったように思う。ただ、当時は健保組合の自主自立の運営を尊重する考えであり、単に規模の小さい保険者を再編統合するといったものではなかったはずである。
 なぜいまなのか? 政管健保の再編が終わり、国保の再編にめどがつき、最終的な仕上げとして健保組合を俎上にのせているのか? 国保と被用者保険の枠を超えた、すべての保険者再編へのレールに沿って動き始めているのだろうか。
 現在、健保組合は高齢者医療制度への過重な負担に苦しみ、また適用拡大による負担増や介護納付金の総報酬割など、さらなる負担を求められ、どこも財政運営が非常に厳しくなっている。そんななかでの保険者再編発言である。
 われわれ健保組合は、多くの課題を抱え大変な状況下にあるが、この保険者再編問題にも正面から取り組まないと、これまで健保組合が果たしてきた役割、健保組合の保険者機能の優位性などがまったく評価なしに再編の波にのみ込まれていくような気がしてならない。
 いまの変化を見過ごし、遅きに失してしまうと、「ゆでガエル」のたとえ話にあるような結末にならないとも限らない。われわれ保険者としても傍観者とならず、積極的に関与していくべきだ。
  (H・K)