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8月30日、大阪商工会議所で心の健康講座を開催。大阪大学保健センター 精神科 教授 工藤 喬氏が「職場のメンタルヘルス」をテーマに講演されました。参加数は、54組合・84人(以下に講演要旨)。 |
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工藤 喬 氏 |
近年のうつ病や認知症の増加にともない、厚生労働省は医療計画に盛り込むべき疾患として従来の「4大疾病」に精神疾患を加え、「5大疾病」とすることを発表している。その背景には、うつ病が多くの自殺の原因であり、社会的損失が極めて高いことがある。
うつ病の症状は、感情、意欲・行動、思考の異常など多岐にわたり、さまざまな身体症状をともなうことも多い。うつ病の症状は日内変動があることが特徴的であり、とくに朝に調子が悪いことが多い。また、罪業妄想や貧困妄想などの妄想をともなうこともある。なかには、身体症状のみが出現し、精神症状が顕在化しない「仮面うつ病」というものもあり、診断が難しい場合がある。
うつ病の発症メカニズムは、心理的要因、内因・性格、あるいは身体的要因の3つが複合していると理解することが肝要である。
まず、身体的要因としては、うつ症状を起こす身体疾患がないかをみなければならない。例えば、甲状腺機能低下症はうつ症状を起こすことが知られている。また、インターフェロンあるいは副腎皮質ホルモンなど、投与されている薬によってうつ症状を起こすことも知られており、このあたりのチェックも必要である。
心理的要因が、うつ病を引き起こすと理解するのは容易であるが、一般的にうつ病の原因とならないような原因も、うつ病の原因となりうることに注意が必要である。例えば、めでたいはずの昇進によってのうつ病が存在する。
内因・性格では、秩序愛が強く几帳面な「メランコリー親和型性格」がうつ病になりやすいとされている。
最近、軽症うつ病の患者が増えたといわれているが、同義語的に使われるようになったのが「新型うつ病」である。しかし、「新型うつ病」は学術的に否定されている。「新型うつ病」に似て非なるものに非定型うつ病という病態がある。非定型うつ病は、拒絶過敏性、鉛用麻痺、気分反応性、あるいは典型的なうつ病と逆転した身体症状を呈することが特徴であるが、もともと薬物の反応性で分類されてきたものであり、生物学的なバックグランドがあることが注目される。
うつ病の治療は、薬物療法と精神療法が両輪として働かなければならない。抗うつ薬は、セロトニンやノルアドレナリンなどのモノアミンのシナプスからの再取り込みを阻害して、結果的にシナプスのモノアミンを増やすことで効果が発現するが、現在では、セロトニンの再取り込み阻害のみのSSRIが第一線で使われている。
安全性が高いSSRIであるが、背景に双極性がある患者に投与すると、アクチベーション症候群やラピッドサイクリング・混合病相などの副作用が発症することもある。
うつ病の精神療法で確立されたものは認知行動療法であり、気分や行動を規定する自動思考について注目する治療法である。 |
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