■2016年5月 No.536
地道な広報活動が重要なわけ
― 一枚岩で切り開く要求実現 ―
「保育園落ちた……」と題するブログが政治を動かそうとしている。一人のつぶやきがきっかけとなって、同じ苦悩を共有する多くの人が共感し、声が大きくなった結果である。
一方、一昨年の健保組合全国大会で上映された街頭インタビューをみて、多くの健保組合関係者がショックを受けたことは記憶に新しい。インタビューを受けた人の多くが、医療保険の仕組みを知らないどころか、自分がどういった健康保険に属し、いくら保険料を支払っているのかさえも自覚がなかった。
この二つの事案は、いずれも国民にとって重要な課題ではあるが、切実感の違いが現れた顕著な例である。
私たちの納めている保険料が、自らの医療費や人間ドックなどの健康維持・管理に十分に使えていないことを、どれだけの人が理解しているであろうか。
毎年のように保険料はアップしているが、それが高齢者医療への負担増に対応するためであり、私たちの保健事業の充実にほとんど使われていないことがわかっている人は、どれだけいるであろうか。
健康保険は空気みたいに「あってあたり前」という認識があることから、病気になって初めて意識する存在になっている。それが、どうも切実感の乏しさにつながっているのではないかと推察する。
こうした事態を打開するためには、まずは加入者一人ひとりが医療保険についての理解を深めることであろうが、それは簡単なことではない。時間と根気がいることであるが、保険者はしっかり伝える役割を担っており、それを草の根的に展開することが求められよう。
広報活動は、一般に対外広報と対内広報に大別できる。対外広報は、マスコミや国会議員をはじめ世間一般(世論)に向かって健保組合全体の財政状況等を発信し、改善要望事項を訴えることにあり、主として健保連が中心に展開している。
また、対内広報としては、各健保組合が加入事業所や加入者に向かって、所属する組合の財政・活動状況や健保連の活動などを発信している。
健保連は、いま高齢者医療への負担のあり方を見直すべしと、国に強く要求している。ただ健保連が大きな声を張り上げて主張しても、加入者がその内容を理解していないだけでなく、そもそもこうした主張が行われていることすら知らないのでは、国は喫緊の課題という認識を持たないことは言うまでもない。
健保連加入者3000万人が現状を十分に認識し、健保連の要求実現に向けた活動の後ろ盾になれば、国はこれまでのような小手先の対応では国民の納得感が得られないことに気づくであろう。
(T・N)