広報誌「かけはし」

 
■2016年2月 No.533
歯科疾患と生活習慣病との関わり

 12月16日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。歯科医師 山本 道也氏が「歯科疾患と生活習慣病との関わり」をテーマに講演されました。参加数は、32組合・41人。(以下に講演要旨)

 
 
山本 道也 氏
 歯を失う主な原因は歯周病とむし歯です。なかでも歯周病は喪失原因の42%を占めています。歯周病は歯周ポケット内の細菌が原因となり、歯を支えている歯槽骨が吸収し、激しい自覚症状をともなわないで進行していきます。
 歯周病の健診では、歯周ポケットの深さ、歯の動揺、レントゲン検査などで歯周病の進行度を調べます。治療と予防としては、歯石除去、ブラッシング指導、歯の固定、外科処置などのプロフェッショナルケアと、毎日の正しいブラッシング、食生活・禁煙など生活習慣改善のセルフケアがあります。
 また、歯周病の原因である細菌やその成分が血管を通って全身に運ばれ、循環器疾患、呼吸器疾患、低体重児出産、糖尿病などの全身疾患としてさまざまな影響を及ぼします。
 なかでも糖尿病とは互いに影響し合います。歯周病は糖尿病の合併症の一つとされ、歯周病の治療で血糖コントロールが改善されることがわかっています。
 医療費との関係では、歯周病がないかたが医科医療費も低くなります。歯科健診を実施することで医療費全体の削減につながった事例もあります。また、歯が多く残っている人のほうが医療費が低くなり、生活の質の維持にも役立つことがわかっています。
 一方、誤嚥性肺炎と口腔ケアの関係も注目されています。誤嚥とは、飲み込みがうまくいかずに食道に入るべき飲食物や唾液が気管に入ってしまうことです。肺炎の原因となりますが、いまでは口腔ケアを実施することで予防効果があることがわかっています。
 さまざまな統計から導き出される医療費の削減という結果からは、口腔内の状態の改善により、健康寿命の延伸、健康格差の縮小、生活の質の向上という効果が得られると考えられています。したがって、今後も歯科保健を推進していきたいと考えています。
 8020運動は、始まって25年が経過しました。「80歳で20本以上の歯を残そう」という意義はすでに広く浸透しています。20本という歯の数に注目が集まりがちですが、その目的を歴史から振り返ってみると、高齢者のかたが、なんでも噛めて豊かな食生活を送るためには何本の歯が必要かという、1985年に実施された調査から始まっています。
 喪失歯10本以上で食生活に支障が出るという結果から、喪失歯を10本以内に抑えることを目標にすることが提唱され、それが4年後の8020運動開始につながりました。
 8020運動は「しっかり噛んで豊かな食生活を送る」ことを目標に始まっています。「8020」が達成できなかった場合でも、歯科治療によって8020運動の目的である「しっかり噛んで豊かな食生活を送る」ことが実現できれば、その効果である全身の健康、生活の質の向上に結びつけることができます。
 健康で豊かな生涯を送るために、今後も定期的な歯科健診とセルフケアの実践にご留意いただきたいと思います。

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