■2015年10月 No.529
睡眠障害とメンタルヘルス
〜正しい睡眠で心も体も健康に〜
9月7日、薬業年金会館で心の健康講座を開催。大阪大学 保健センター 准教授 足立浩祥氏が「睡眠障害とメンタルヘルス〜正しい睡眠で心も体も健康に〜」をテーマに講演されました。参加数は、47組合・63人。(以下に講演要旨)
足立 浩祥 氏
はじめに
わが国では近年、睡眠時間の短縮化、不眠の頻度の増加など、睡眠に問題を有する睡眠不全の人の割合が増加している。また、さまざまな社会的背景によりメンタルヘルス不全を患う人も増えている現状がある。
睡眠不全、メンタルヘルス不全いずれも決して特別なことではなく、条件がそろえば誰にでも生じうる可能性があることを認識しておくことが肝要である。
本講演では、メンタルヘルス不全と睡眠の関連について、また、睡眠不全に陥った場合の対応についてセルフケアを中心に解説した。
心身の健康と睡眠改善の意義
メンタルヘルス不全、なかでもその原因として代表疾患であるうつ病では、高頻度に睡眠障害(不眠)が初期から認められることが多い。とくに自覚症状としても本人が気づきやすく、うつ病の早期症状として不眠を捉えることは非常に大切である。
うつ病の経過において、不眠は前駆症状、うつ病自体の症状、うつ症状に併存する症状、うつ病寛解後の残遺不眠や再発リスクという、うつ病の各ステージにおいて深く関連する病態として認識しておく必要がある。
一方、不眠や睡眠不足による生活習慣病への影響も多数研究報告がされており、高血圧、糖尿病など、さまざまな身体疾患に睡眠不全が悪影響をおよぼすことも明らかになってきている。
心身の健康を維持するためには、運動・食事とともに良質な睡眠が必須であることを強調しておきたい。
不眠を慢性化させず、睡眠薬の効果を最大限引き出すために
不眠の原因は多様であり、多くの要因が重なって存在していることもしばしばみられる。大切なことは、「不眠」は症状であり病名ではないということである。
例えば、「腹痛」は症状であって、その原因はなにかを調べ、必要に応じた対応や治療が必要になることと同じである。
したがって、「不眠」という症状に対して、常に睡眠薬が必要になるわけではなく、原因に応じた対応が必要となる。
とはいえ、不眠症状に対しては、睡眠薬の使用が必要となる場合がしばしばある。そのため、その使用における大前提を十分理解しておく必要がある。とくに睡眠保健(良い睡眠を得るために必要な生活習慣)が不適切な場合がしばしばみられ、本人はそれに気づいていないことも多く、それを改善しないまま睡眠薬を用いることはかえって病状の悪化をきたしかねない。
睡眠保健で指導される内容は、一つひとつは一見小さなことのように思えるが、全体として睡眠に大きな影響を与えている。正しい知識にもとづいた、生活習慣全般の改善が必要であることを理解する必要がある。睡眠保健の内容は、生活習慣病をはじめとするさまざまな身体・精神疾患の改善を進めていくうえで、日頃の生活改善において必須の項目が多く含まれている。
うまく眠れなくなったときに、まずセルフケアとして取り組んでいただける睡眠保健の知識をぜひ深めていただければ幸いである。
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