広報誌「かけはし」

■2015年4月 No.523


 3月30日の「あしたの健保組合を考える大会」で行われたパネルディスカッションのテーマは「皆保険制度の維持に向けて あしたの健保組合を考える」。パネラーとして大阪府選出の国会議員3氏が出席。国際医療福祉大学大学院の和田勝教授をコーディネーターに、意見を交わした。会場の参加者からは、健保組合の危機を訴える切実な意見もあった。医療保険制度改革関連法案に対する本格的な国会審議を控えて、タイムリーなパネルディスカッションとなった。
左から松浪氏、伊佐氏、とかしき氏、和田教授
 パネルディスカッションに先立ち、国際医療福祉大学大学院の和田勝教授が基調講演を行った。
 和田教授は、今日の医療・介護問題を考えるうえで、国民一人ひとりがどんな観点で関わっていくか。保険者は自立と連帯による費用負担者としての立場がある。一方、税負担者の立場もあり、医療・介護サービスの受益者の立場もある。それぞれを考慮して、調和がとれていないと保険制度は成立しない。社会的公正が大事だ、と説いた。
 パネルディスカッションには、パネラーとして、とかしきなおみ氏(自民・衆)、伊佐進一氏(公明・衆)、松浪健太氏(維新・衆)の3氏の国会議員が出席した。コーディネーターは和田教授がつとめた。
日本の医療・介護の今後のあり方
 高齢化による医療・介護制度の財政危機については、3氏とも同じ認識。今後のあり方について、各氏それぞれの考え方を述べた。
 とかしき氏は、日本が誇る医療の成果をベースに、情報とデータを持って世界に積極的に打って出ることが、制度の安定にもつながる、とした。
 伊佐氏は、負担をするのにふさわしい社会保障・医療の仕組みを構築する必要がある。いまの制度は複雑化しすぎているのではないか。今後は「住まい」を基本に医療・介護サービスを外づけに整理していく必要がある、と意見した。
 松浪氏は、右肩下がりの時代にふさわしい制度体系に改めてはどうか。「世代会計」の考え方や、「道州制」を踏まえた医療・介護の再編成もある、と示した。
医療費増大化への対応
 とかしき氏は、医療費増大の要因として、日本人の制度への甘えの構図もあるのではないか。対策として、例えば「カゼは病気ではない」など、病気の定義の見直しもあろう。国民には医療のコストを減らしていく義務があるという、意識改革が必要だ。
 また、ジェネリック医薬品の使用割合もこの5年間で高まったが、欧米諸国に比べるとまだ低い。もっと推奨していく必要がある、との考えを示した。
 伊佐氏は、限られた医療費をどう割り振っていくかが問題。病気の低リスク者や高所得者の視点を勘案することも必要、と述べた。
 松浪氏は、これまでは皆保険に守られてきた。これからは、受けられる最低限の医療はどのレベルなのかを見据えていかなければならない。リビング・ウィルの制度化、生活保護対象者へのジェネリック医薬品使用促進なども提唱している。
 われわれが思っていた常識は日本人だけの常識。そのマインドを変えるということ、と大胆な発想の転換を説いた。
健保組合への期待
 和田教授は、健保組合はこれまで、皆保険制度を支える先導的役割を担ってきた。しかし現状をみると、本来、被保険者・家族の医療や健康維持のために充てられるべき保険料の4割強が、後期高齢者支援金など外部への拠出金に充てられている。それによって経常赤字を余儀なくされ、保険者としての存続も厳しい状況に直面している。
 その一方で、なお健保組合への期待も大きい。これからの健保組合に対する注文などがあれば伺いたい、と各氏から意見を引き出した。
 本題に入る前に、今国会に提出されている医療保険改革関連法案について、とかしき氏は、国保の赤字の穴埋め、国費の転用だとして、健保組合には受け入れ難い内容があると思う。だが、それだけ国家財政は追い詰められている状況であり、ご理解いただきたい、と求めた。
 伊佐氏は、いまの社会保険制度の姿は納得がいかず、制度改正はつまずきかねない。「取れるところから取る」「社会保険なのだから支払い能力のあるところが払わなければならない」というのは乱暴。ていねいな議論が必要と、くぎを刺した。
 松浪氏は、今回の改正案は健保組合にとって、どう考えてもいい話ではないだろう。であれば、健保組合もまっとうに拠出金を払うが、国も真剣に医療費のことを考えてくださいというアピールのしかたが大事、と示した。
 そして、健保組合への期待や今後の役割について、とかしき氏は、健保組合はデータの宝庫。会社と連携をとりながら双方が発展できる。強みを活かすべきではないか。発展のためには、経営センスや専門家の育成も重要、とした。
 伊佐氏は、27年度から健保組合にデータヘルスに取り組んでもらうことになった。今後は、それによる効果を活かした統一的な指標づくりも重要になろう。
 もっと進んで、例えばデータをもって保険者協議会での医療提供体制づくりへの参画や、地域包括ケアシステムの検討にも積極的に参画していただきたい、と述べた。
 松浪氏は、医療保険一元化の議論もあるが、やはり民間の感覚がとても大事。大胆ないいセンスを活かし、正直者がバカをみない医療をつくっていくべき、との考えを示した。
質疑応答
 パネラーの発言に対して、大会に参加した健保組合常務理事から、次のような切実な意見があった。
 西日本パッケージング健保組合 稲田常務理事
 私どもは、同種、同業が集まって組織する総合健保組合である。いま保険料収入の約50%を高齢者医療拠出金として負担しなければならない。平成23年度から4年連続して保険料率を引き上げ、料率は現在、協会けんぽを大きく上回り10.4%だ。私どものような総合組合のなかには、事業主から、協会けんぽより料率が高く今後の方向性がみえないのならば解散してはどうか、との声もあるという。
 しかし、私どもは、健保組合は協会けんぽにはない事業主との距離が近いというメリットを活かし、きめ細かな保健事業を中心とした事業展開を推進している。今後も健保組合を守っていかなければと思っているが、負担は限界にきている。
 29年4月に導入予定の消費税引き上げ分の財源を、高齢者の医療費に充てるなど、現役世代の負担軽減を図っていくべきと考える。
 カネボウ健保組合 岩尾常務理事
 当健保組合も財政状況が非常に厳しい。そのため、このところ保険料率の引き上げ、付加給付の削減、健保組合支部の廃止、直営保養所の閉鎖、直営診療所の閉鎖などを余儀なくされている。
 社会保障費とりわけ医療費の増大化は、抑制すべき国の大きな課題とされているが、優先課題は真に実効性のある歳出削減策ではないか。入院時の食事自己負担額の引き上げ等、順次見直しの方向性はみえる。
 しかし、これだけで期待する医療費の抑制は達成できるのか。高齢者の自己負担率の引き上げ見直しなど、さらに踏み込んだ改革の具体的な検討に入るべきと考える。
 高齢者受けの悪い事柄であっても、医療費抑制のために、実効性のある方策を検討するよう、アプローチを強化していただきたい。
 これに対して、パネラーからは「高齢者の医療費に切り込んでいかないと、皆保険制度も健保組合ももたないということを本日のパネルで肌で感じた」(とかしき氏)。
 「今回の改正案のなかで、保険者の負担軽減策の法定化が盛り込まれたのは一歩前進ではないか。27年度は100億円ではあるが、ここからどう拡大化していくかが問われるだろう」(伊佐氏)。
 「消費税増税分を『みえる化』して高齢者医療に充てることだ。高齢者の皆さんに、医療費がかかってこういう状況になっているということを説明。マインドを変えていくことが必要だ」(松浪氏)―などの応答があった。
パネラーと参加者が質疑応答