■2014年10月 No.517
一歩進んだメタボ対策
〜早期発見で重症化予防〜
8月22日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。京都大学大学院医学研究科 社会健康医学系専攻健康情報学分野 中山健夫教授が「一歩進んだメタボ対策 〜早期発見で重症化予防〜」をテーマに講演されました。参加数は、65組合・84人。(以下に講演要旨)
中山健夫 氏
特定健診・特定保健指導の現状
平成20年(2008年)に開始された特定健診・保健指導は、6年余りを経過し、その成果と課題が明らかにされつつある。
特定健診受診者の20%弱が特定保健指導の対象となっているが、特定保健指導の実施率は平成24年度でも16%に留まる。
特定健診・保健指導の医療費適正化効果等の検証のためのワーキンググループの中間取りまとめ(案)(2014)によると、すべての性・年齢階級で体重・BMI・腹囲の減少、血糖・血圧・脂質の改善(介入・比較群ともに各年度約20万人)、6カ月評価まで終了した者で保健指導レベルの改善を認めている。
しかし、指導2年目以後の検討は不十分である。大阪府内の某企業健保では、数千人規模の健診受診者のうち、16%が特定保健指導の対象、そのうち7%が特定保健指導を終了、うち翌年の健診で約3分の1が指導対象外となった。しかし、2年後の特定健診で3分の1が特定保健指導の「対象」にもどっていた。
新しい取り組み
現場の限られたリソース(人・物・財政・時間)で発見から介入、維持まで効果のある新たな方法の開発ニーズは大きい。
ウェブを通じた集団指導による減量プログラム
は、同じ立場の人たちがお互いに影響し合うピアサポートとグループダイナミックスを活用したものである。3カ月間のランダム化比較試験によって、電子メールによる個別支援に比べ、集団支援群の減量程度が大きいことが示された。
また現在、演者らが開発中のプログラムは、健診で「HbA1c5.6〜6.4%:糖尿病予備群」かつ「BMI≧25:肥満」と指摘された者に参加を呼びかけ、ウェブ上で生活習慣(運動(歩数)・食事等)を自己記録するとともにEラーニング(食生活・運動から参加者が希望により選択)を提供するものである。
主要評価指標は3カ月間の体重変化(ベースライン体重の3〜5%減を推奨)として、ランダム化比較試験でプログラムの効果を検証する。本プログラムでは、近年注目されている行動経済学・行動科学的な項目(時間割引率、セルフコントロール尺度、自己効力感等)を取り入れ、人間の認知・行動傾向を考慮してプログラムを提供することを計画している。
メタボリックシンドローム対策とともに、健診で一定の基準値を超えて医療受診を勧奨された「要医療者」対策は現場の関心が高い。演者は特定健診とレセプトの突合データベースを用いた疫学研究で、健診後6カ月以内に必要な医療機関を未受診であった者は、高血糖で約65%、血圧高値で80%以上であることを報告している。
健診とレセプトデータを連結させた個人レベルでの情報を活用し、医療機関の未受診や、受診後の中断などの対象者を的確に抽出し、受診・受診継続を勧奨するシステム(リマインダーメール等)の開発も進むことが期待される。その際には、個人への介入・支援だけでなく、個人が必要な医療機関を適切に受診できるよう な職場環境の整備も併せて進めることが必要であろう。
今中,J Med Internet Res 2013
辻村 他,Diabetes Res Clin Pract 2014, 栗山 他,J Public Health 2014
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