広報誌「かけはし」

■2014年9月 No.516
 社会保障審議会医療保険部会(部会長=遠藤久夫学習院大教授)は8月8日、これまでの医療保険制度改革に関する主な意見を集約、公表した。
 制度改革については、昨年8月の社会保障制度改革国民会議報告、12月の「プログラム法」決定で方向性が示されている。医療保険部会での審議は、それに沿ったもの。同部会では、この4〜7月にかけて6回にわたり1巡目の議論を行い、医療保険全般の検討を重ねてきた。
 しかし、懸案の国保構造改革、高齢者医療改革については、これまでのところ各側主張の隔たりがいぜん大きい。このため部会として現段階では、中間まとめにあたり、主な意見併記のかたちをとらざるをえなかった模様だ。
 2巡目の審議で、本格的な検討が年末まで続く予定だ。結論は医療保険制度改正法案に盛り込まれ、年明けの通常国会に提出される。検討の中身は国の平成27年度予算に影響するため、審議の動向が注目されている。
 医療保険部会の検討項目、懸案事項に関する主な意見(相対する意見の抜粋)、委員一覧は次のとおり。
検討項目
  1.国保の財政上の構造問題
  2.協会けんぽの国庫補助
  3.医療費適正化、保険者機能発揮
  4.高齢者医療の費用負担全体のあり方
  5.後期高齢者支援金の全面総報酬割
  6.前期財政調整
  7.高齢者の保険料特例軽減措置等
  8.給付の効率化について
  9.審査支払機関について
  10.療養の範囲の適正化・負担の公平の確保について
  11.その他(出産育児一時金について、短時間労働者について)

主な意見(抜粋)
国保の財政上の構造問題
社会保障と税の一体改革による保険者支援の1700億円だけでは国保の財政基盤の強化は難しい面があるので、さらなる公費投入が不可欠。後期高齢者支援金への全面総報酬割導入により生じる財源を国保の支援に優先的に活用することを含めて、国の責任において財政確保を行うべき。
財政上の構造問題を解決するために必要な範囲において、役割分担の議論も並行して進めていきたい。今後、国が構造問題解決への道筋を明確に示さずに、都道府県と市町村の役割分担についての議論のみを進めようとする場合は、都道府県は協議から離脱する。
単に国保の財政運営が都道府県単位化されるだけでなく、被保険者にとってもメリットがあり、市町村が行っている保険者業務にとっても効率化が図られるというメリットがある仕組みにすべき。

高齢者医療の費用負担全体のあり方
被用者保険は、高齢者を中心に医療費が増大するなか、高齢者医療への拠出金負担により、厳しい状況。この危機を回避するために、高齢者医療制度の財源のあり方を早急に見直すとともに、伸び続ける医療費の適正化策を着実に実行すべき。
持続可能な社会保障制度のためには高齢者医療の負担構造の見直しが最重点課題。高齢者医療制度のあり方、その費用負担について早期に具体策を検討すべき。
現行の仕組みでは、被用者保険にとっては保険料収入に占める高齢者医療への拠出金割合は今後ますます高まり、積極的な保険者機能の発揮が困難になる。国保が抱える構造的問題をそもそもどう解消していくのか、現役も含めた負担の公平性と納得性を医療保険全体のなかでどう確保していくのか、同時に議論すべき。

後期高齢者支援金の全面総報酬割
負担の公平性の確保という観点から、総報酬割の全面導入を実現すべき。
後期高齢者支援金への全面総報酬割導入については、高齢者医療への税投入の拡充、医療給付の重点化・効率化といった施策とセットでなければ賛同できない。
全面総報酬割導入は高齢者医療制度への公費拡充とセットで議論されるべき。それによって削減される国庫補助分は、現役世代の拠出金負担の軽減、とくに前期高齢者への公費拡充のために活用すべき。

前期財政調整
被用者保険全体で負担する前期高齢者納付金が、国保への国費負担を上回っていることはおかしい。
国保側に前期高齢者とそれ以外の財政区分が設けられていないため、被用者保険からの前期高齢者納付金の使途が前期高齢者の医療給付に特定されているかわかりにくい。国保の前期高齢者に係る収支を比較すると、収入が超過しており、これは、前期納付金が現役世代に使われているともとらえられる。国保の財政区分をはっきりさせ、65歳から74歳以下の会計区分のなかで、保険料と公費で賄いきれない部分を納付金で支えるという形に見直すべき。
仮に国保のなかで年齢による財政区分等を実施する場合、さらに財源が必要となり、国と地方の役割分担等に関する現在の協議の前提が壊れてしまう。
前期高齢者納付金の算定について、概算と2年後の精算との乖離が大きいので、改善していくべき。

医療保険部会 委員
  ▽(部会長)遠藤久夫(学習院大学経済学部教授)▽高橋睦子(日本労働組合総連合会副事務局長)▽福田富一(全国知事会社会保障常任委員会委員長/栃木県知事)
  ▽(部会長代理)岩村正彦(東京大学大学院法学政治学研究科教授)▽岩本康志(東京大学大学院経済学研究科教授)▽岡ア誠也(全国市長会国民健康保険対策特別委員長/高知市長)▽川尻郎(全国老人クラブ連合会理事)▽菊池令子(日本看護協会副会長)
  ▽小林剛(全国健康保険協会理事長)▽齋藤正寧(全国町村会財政委員会委員/秋田県井川町長)▽柴田雅人(国民健康保険中央会理事長)▽白川修二(健康保険組合連合会副会長)▽鈴木邦彦(日本医師会常任理事)▽武久洋三(日本慢性期医療協会会長)
  ▽樋口恵子(NPO法人高齢社会をよくする女性の会理事長)▽藤井隆太(日本商工会議所社会保障専門委員会委員)▽堀憲郎(日本歯科医師会常務理事)▽堀真奈美(東海大学教養学部人間環境学科教授)
  ▽望月篤(日本経済団体連合会社会保障委員会医療改革部会長)▽森昌平(日本薬剤師会常務理事)▽横尾俊彦(全国後期高齢者医療広域連合協議会会長/多久市長)▽和田仁孝(早稲田大学法学学術院教授)