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11月12日、薬業年金会館で心の健康講座を開催。関西福祉科学大学 健康福祉学部 倉恒弘彦学部長が「慢性疲労症候群とメンタルヘルス」をテーマに講演されました。参加数は、49組合・70人。(以下に講演要旨) |
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倉恒弘彦 氏 |
1.慢性疲労症候群(CFS)とは
CFSは、健康に生活していた人が感染症などに罹患したことなどをきっかけに、激しい全身倦怠感に襲われ、それ以降、慢性的な疲れとともに微熱、頭痛、筋肉痛、脱力感や、思考力の障害、抑うつ等の精神神経症状などが長期にわたって続くため、健全な社会生活が送れなくなるという病気です。
1984年、米国ネバダ州の村で、原因不明の疲労患者の集団発生が報告されました。その数は200名にもおよび、村人口の約1%にも達するものでした。そこで、この病因を解明するための調査基準が1988年に設定され、世界中で広く使われるようになりました。これが、世界中で用いられているCFSのCDC診断基準です。
わが国でも、1991年には厚生省CFS研究班(班長:木谷照夫氏)が発足し、翌年にはCFS診断基準が作成され、病因・病態の解明に向けた活動が行われてきました。平成25年度からも、「慢性疲労症候群の病因病態の解明と画期的診断・治療法の開発」(代表研究者:倉恒弘彦)が活動をしています。
紙面の関係上、CFSの診断基準や病因・病態、治療法などについて詳細にご紹介することができませんが、研究班のウ ェブサイト において紹介しておりますので、ぜひご参照ください。
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http://www.fuksi-kagk-u.ac.jp/guide/efforts/research/kuratsune/index.html |
2.CFSに陥るメカニズム
CFSの病因はいまだ解明されていませんが、私たちはウイルスの感染症や身体的ストレス(過重労働など)、精神的ストレス(人間関係のあつれきなど)、物理的ストレス(紫外線、放射線、寒冷曝露、熱中症など)、化学的ストレス(ホルムアルデヒドなどによるシックハウス症候群など)の種々の環境要因と遺伝的要因によって引き起こされた神経・内分泌・免疫系の変調にもとづく病態であると考えています(図1)。
このようなストレスのもとでは、NK活性などの免疫力が低下しますが、そうすると体内に潜伏感染していたヘルペスウイルスなどの再活性化が惹起されます。口唇ヘルペスや帯状ヘルペスなどは、免疫力の低下が関係しています。湿疹がみられない場合も、唾液中のウイルス量を調べてみると、人はストレスを受けると明らかにウイルス量が増加することが判明しています。
すると、ウイルスの増殖を抑えるためにインターフェロン(INF)やIL―1βなどの免疫物質が造られてきます。このような免疫物質は、本来、体を守るために造られているのですが、脳内でもグリア細胞などにおいて造られてしまい、脳・神経系の機能障害を引き起こしているのです。いくら休んでも取れない疲労や脱力、全身の筋肉や関節の痛み、思考力、集中力の低下、いらいら、不安、抑うつなどの症状は、このような脳・神経系の機能障害と関連していることがわかっています(図1)。
ごく最近、われわれが脳内における神経炎症をポジトロンCT検査(活性型ミクログリアの検出)で調べたところ、症状の重いCFS患者では左視床と中脳の炎症が強く、臨床症状とも関連していることが判明しました。したがって、病状の重いCFS患者では脳の機能障害だけでなく、炎症性変化も確認されているのです。
CFSは、保険診療で認められている一般検査にはほとんど異常がみられないために、体の病気ではなく、心の病気と思われがちであり、多くの患者が学校や職場の関係者からの信頼を失い、孤立しています。大切なことは、周りの人がCFSも体の病気として正しく理解し、患者さんを支える環境をつくることであると思います。
図1.慢性疲労症候群(CFS)に陥るメカニズム |
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NK活性:ナチュラルキラー活性、IFN:インターフェロン、
TGF-β:トランスフォーミング増殖因子β |
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