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職場のうつ

− 治らなくても働ける!復職マニュアル − |
5月8日、薬業年金会館で心の健康講座を開催。大阪樟蔭女子大学 学芸学部 健康栄養学科 石蔵文信教授が「職場のうつ〜治らなくても働ける!復職マニュアル〜」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨) |
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石蔵 文信 氏 |
メンタル疾患が急激に増加して、健康保険組合の負担は増えるばかり。医療費の負担も大きいが、傷病手当金の給付負担も、健保組合の運営に大きく影響している。うつ病などは休職期間が長く、相当な支出となる。お金をかけても社員が復帰できればよいのだが、うつ病の復帰は身体的な病気に比べるとあまりよくない。そのために1年半の支給期間が過ぎ、無給となってしばらくすると自然退職に追い込まれることが多い。うつ病を抱えたまま失職すると、かなり悲惨な生活になることは容易に想像できる。
せっかくの制度もうまく活かしきれないままに費用だけがかかり、会社にも個人にもよい結果を生まないのは問題があるだろう。
このような深刻な事態に対して、厚労省はメンタル疾患を早期に発見するために職場でのストレスチェックを推進している。厚労省の思惑は職場でメンタル不調者を早期に発見して、未然に予防し、重症な場合は速やかに心療内科や精神科に紹介するというシナリオだが、本当にうまく機能するのだろうか?
すでにストレスチェックを行っている職場の担当者は、「1年目は大勢のメンタル不調者がいたが、2年目からは激減した」というので、「なにか有効な対策をとられたのですか」と尋ねると、「とくに対策はしていない」とのこと。すでにストレスチェックを受けられた私の患者さんは「1年目に正直に書いたら、産業医に呼び出された。3時間かけて本社に行ったのに指導は『リラックスしてください』など5分くらい。馬鹿らしいので2年目は呼び出されない程度に書きました」という。私はストレスチェックが有効でないとは思わないが、なんの対策もなく施行しても、本音を出す社員は多くはないだろう。
とくに男性は自分のストレスを過小評価しがちである。そのために周囲の意見を聞くことが大切である。とくに妻や同僚から「最近、体調が悪そうだ、怒りやすくなった、人間関係が悪くなった」など聞くようになれば要注意である。調子が悪そうだと呼び出しても、本人は「大丈夫です」とか「もう少し頑張ってみます」とかいうことが多いが、〈まだ大丈夫は、もう無理〉と考えた方が無難である。
多くの産業医や保健師がメンタル疾患の対応に慣れていない。メンタルストレスの原因は多種多様で、それを傾聴する技術も個人差が多い。職場で初期のメンタル不調者に十分対応できているかは疑問である。そのようなメンタル不調者を専門家に紹介するのも容易ではない。最近、心療内科や精神科の開業が増えたといっても、患者さんの増加に追いついていない。開業当初は丁寧な診察ができた医師も、患者さんの増加にともない診療時間は短くなり、初診もひと月ほど待たされることが多い。このような状況ではせっかく発見したメンタル不調者も重症化してしまう。
このような状況を改善するため、私は日本経済新聞出版会から『男のうつ:治らなくても働ける』を出版した。そこでは復職の方法だけでなく、会社のメンタルヘルスに特化したコンサルタントの必要性も述べているので、読んでいただければ幸いである。 |
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