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メタボリックシンドロームの落とし穴

〜ダイエットの真相〜 |
12月10日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。国立病院機構京都医療センター 臨床研究センター 臨床内分泌代謝研究室 臼井 健 室長が「メタボリックシンドロームの落とし穴〜ダイエットの真相〜」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨) |
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臼井 健 氏 |

メタボリックシンドロームは、日本人の死因の2位と3位を占める心疾患と脳血管疾患の重大なリスクファクターであり、メタボリックシンドロームの克服は、健康の維持という観点はもちろん、医療費という経済的観点からみても社会において重要な課題である。
メタボリックシンドロームは内臓脂肪蓄積(実際には腹囲)という現象をその基盤においた疾患概念であり、これに高血圧、耐糖能異常、脂質代謝異常(高中性脂肪血症、低HDL血症)の4項目のうち、2項目以上の基準を超えた場合にメタボリックシンドロームと診断される。これらのリスクファクターが重積することで重篤な動脈硬化疾患(心筋梗塞や脳卒中)が著明に増加することは疫学的に証明されている。
2008年から特定健診が導入され腹囲の測定が広く行われるようになり、メタボリックシンドロームと診断された人に対して積極的な支援や介入を行う体制がとられるようになった。肥満に対する有効な薬物治療が期待できない現状では食餌療法、運動療法といった生活習慣の改善に特効薬はなく、地道な指導と努力が必要な状態である。
一方で、数は少ないが手術や薬で「治る」メタボリックシンドロームも存在することは念頭に置いておくべきである。肥満、高血圧、糖尿病、脂質代謝異常のいずれも別の病気が原因で「2次的」に起こっている場合があるからである。ホルモンの病気である先端巨大症、クッシング症候群、褐色細胞腫、甲状腺疾患はその代表であり、いずれも根治可能なことのある疾患である。先端巨大症やクッシング症候群は、その特徴的な顔貌や体型に注意し、場合によっては内分泌学的検査を専門医による判断で発見されることもある。
患者さんのQOLはもちろんだが、適切な対応のためにも、肥満や高血圧、糖尿病などの最初の診断にあたっては、これらの疾患の可能性がないか、慎重に見極めることが重要である。
大豆は古来より健康食として知られているが、メタボリックシンドロームについてはその効果が期待されている。大豆に含まれるイソフラボンであるダイゼインは、腸内細菌の代謝を受けてエクオールという物質に変換される。しかし、日本人では約半数の人しかエクオール産生菌を有していない。一般健診受診者を対象とした観察研究では、エクオールを産生できる人はできない人と比べてBMIが低い傾向が認められ、動脈硬化に関係するパラメーターの数値が低い傾向も認められた。
われわれは肥満患者さんを対象としてエクオールの投与研究を行った。限られた用量と限られた期間でのエクオールの投与ではあったが、耐糖能や悪玉コレステロール、血管の硬さの指標がエクオールの投与で改善することを見い出した。大豆の健康増進効果には、腸内細菌による個人差がある可能性がある。 |
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