広報誌「かけはし」
 
■2012年11月 No.494
時評

厳しさ増す健保組合財政

− 「一体改革法」は成立したが −


 持続可能な社会保障制度の構築―。わが国が直面している喫緊の課題である。
 急テンポで超高齢社会に突入したなかで、医療・年金・介護等の給付費が加速度的に膨らみ、社会保障制度は危機的な状況に陥っている。
 国民医療費は、2025年(平成37年)には61兆円に達すると試算されており、医療保険者は今後、より厳しい事業運営を迫られることになる。
 健康保険組合は、現在、伸び続ける医療費と高齢者医療制度への負担増、景気の低迷にともなう保険料収入等の伸び悩みにより、厳しい財政運営を強いられている。
 平成23年度の健保組合全体の決算は、約4割の組合が保険料率を引き上げたにもかかわらず、経常収支は3489億円の赤字となり、平成20年の高齢者医療制度創設以降、4年連続で3000億円超の赤字となっている。累積赤字額は1兆6068億円にもおよび、全組合の76.3%が赤字を計上するなど、深刻な事態となっている。
 こうしたなかで、民主・自民・公明の3党合意にもとづき、消費税率引き上げを含む社会保障・税一体改革関連法が、先の第180回通常国会で成立し、8月22日交付・施行された。消費税率は、平成26年4月から8%に、27年10月からさらに2%引き上げられて10%となる。
 消費税の使途は、「年金・医療・介護・少子化対策」の4経費に限られているが、引き上げによる消費税率4%分は基礎年金国庫負担2分の1の引き上げや、高齢化等にともなう自然増への対応など現行制度の安定化に充当、残りの1%を社会保障の充実に充てることとされた。われわれ健保組合関係者がこぞって切望していた高齢者医療制度への公費拡充は、このままでは望めそうにない。誠に残念である。
 高齢者の増加による医療費の増大と、それにともなう拠出金の大幅な負担増が、このまま放置されれば、健保組合財政は破綻の一途をたどることになる。果たして、制度改革が実現するまで健保組合は存続できるのか、まさに崖っぷちの状況である。
 一方、今後の医療制度改革については、社会保障制度改革推進法に盛り込まれた「社会保障制度改革国民会議」の議論に委ねられたが、国民会議は、政党間の思惑もあり未だ設置されていない。設置期間は、政令で「平成25年8月21日」までと定められている。早期にこれを立ち上げ、議論を開始すべきである。当然、高齢者医療制度改革も国民会議での主要なテーマとなる。世代間・制度間で、公平な給付・負担が担保され、保険者の努力が報われる高齢者医療制度改革となるよう国民会議での検討に大いに期待したい。
 政治は重大な局面を迎えているが、与野党攻防がどう推移しても、衆議院選挙は必ず行われる。その後、どの政党が政権を担うにせよ、社会保障制度の改革が重要な課題になることは間違いない。
 過去には、社会保障制度は「政争の具」とされ、問題が先送りにされたことも幾度となくあった。政権交代のたびに制度が変わるようなことがあってはならない。
 「鉄は熱いうちに打て」という。社会保障制度が揺らいでいるいまこそ、与野党は超党派で、政治の責任で改革を断行してほしい。
  (O・K)