■2012年2月 No.485
社会保障改革を強く進めよ
− 欲しい現役世代の重圧払拭 −
政府・与党社会保障改革本部は1月6日、消費税率を2014年(平成26年)4月に8%、2015年10月に10%に引き上げることを盛り込んだ社会保障・税一体改革素案を決定した。
今回の一体改革素案では、膨らみ続ける社会保障費を、世代を超えて負担を分かち合う消費税の増税で賄うことを打ち出している。1990年度に11.6兆円だった社会保障費は、2012年度政府予算案では、一般会計からはずした年金の国庫負担分を含めると29.0兆円に増えた。一方、税収はピークだった1990年度の60.1兆円から2012年度は42.3兆円にまで減る見込みだ。そのため歳入の半分は借金に頼り、国の借金残高は1000兆円を上回る見通しである。当初、社会保障費のために埋蔵金を充てる、公共事業費を削るなどいろいろ試みはしたが、それも限界に達し、今回、国民に負担を求めることにしたようだ。
消費税収(国分)を「社会保障目的税化」と明確にし、使いみちは年金、医療、介護、子育ての社会保障4経費に限ることを会計上も鮮明にするとした。5%の増税分のうち、所得の低い人の年金の上積みや子育て支援など社会保障の「充実」に回すのは1%にすぎない。残りの4%分は、高齢化による社会保障費の自然増や年金の国庫負担など、いまの仕組みを続けたり、財政を再建するために使われる。財政再建についても、10%に上げる時期を2015年4月から2015年10月に半年遅らせることにより、イエローサインがつきそうだ。
政府は基礎的財政収支の赤字の割合を、2015年度に半減させることを目標にしているが、半年ずれることでこの年度内の消費税は2兆円あまり減ることになる。仮に2015年度の目標を達成できたとしても、その先には「2020年度に基礎的財政収支を黒字化」という次の目標が控えている。将来的にはさらなる消費税が必要との声も出ている。
今後の日本の景気動向は予断を許さない。経済の足腰が弱いときに消費増税を強行したら、かつての橋本自民党政権の二の舞になるのではとの声もささやかれている。1997年、橋本内閣は財政構造改革法により財政再建に取り組もうとしたが、消費税3%から5%へのアップ、所得税や住民税の特別減税の廃止などの実施で、景気は腰砕け状態となり、改革はとん挫した。今回も、東日本大震災によるダメージや欧州財政危機、超円高など経済環境は非常に厳しい。
われわれからみれば、一体改革素案における社会保障改革の考え方が大いにもの足りない。まず、改革の姿が総論だけにとどまり、将来展望が具体的にみえない。また、高齢者医療制度見直しでは、制度への公費投入・拡大についてまったく示されていない。さらに、後期高齢者支援金と同様に、介護納付金にまで総報酬割の導入検討が記されているからだ。「社会保障の安定財源確保」というわれわれの主張とはほど遠く、税率が引き上げられた後であっても健保組合への負担の押しつけが行われる懸念が十分に考えられる。重圧にあえぐ現役世代の負担軽減のための具体策担保はぜひとも必要だ。
野田首相には今後、国会における法案の提出、審議、そして採決と、より高いハードルが目の前に待ち受けている。この一体改革はもはや後戻りはもちろん、立ち止まることも許されない。首相は昨年暮れに「君子は豹変す」の立場で行革にも臨むと訴えた。文字どおり、無駄の削減を実現できなければ、改革への世論の支持は広がらず、政権の灯火も消えてしまうのではないか。首相は政権与党のリーダーとして厳しい現実を見据え、施策と財源の両面でゆるぎない社会保障制度とするための改革に突き進んでいくべきだ。
(K・N)