■2010年8月 No.467
危機的な健保組合財政
− 医療費資源の効率的活用を −
健保連の平成22年度予算早期集計によると、健保組合全体の経常収支は、過去最悪の6605億円の巨額な赤字となっている。直近10年間の経常収支の推移をみると、黒字のピークは平成16年度の3062億円で、これと比較すれば落差は約1兆円にものぼる。
赤字のおもな要因は、収入面では、経済状況の悪化による標準報酬月額の減少と標準賞与額の大幅な減少による保険料収入の減少である。支出面では、被保険者・家族に対する保険給付費の増加と高齢者医療制度への巨額な納付金・支援金等である。保険給付費と納付金・支援金等の合計額だけで、保険料収入額を軽く上回る異常事態となっている。
このため、各健保組合では保険料率の引き上げや、積立金の取り崩しなどの対策で工面している。保険料率の引き上げは事業主の経済活動と被保険者の懐を直撃するもの、積立金の取り崩しは長年の経営努力の糧を削るものであるが、労使双方に理解いただき、やむなく実施せざるをえない。しかし、高齢化を主因とした国民医療費は、待ったなしに毎年1兆円ずつ増え続ける。いくらやりくりしても、医療費や高齢者医療制度への納付金・支援金等の増勢におされてしまう状況だ。
ところで、先の参院選では、消費税問題が争点のひとつになったが、税率引き上げへの言及は、世論の反発を買った。けれども論戦のなかで、医療など社会保障にかかる財源をどこかに求めなければならないことを、大多数の人が十分に認識したのではないか。この点について、われわれは平成20年度の健保組合全国大会で「税・財政改革による安定した社会保障財源の確保」とのスローガンを採択、前もって警鐘を鳴らしていたのである。
同じく参院選での各党の医療に関するマニフェストをみると、総じて診療報酬の引き上げ、医師数・医学部定員の増員などの記述が目立った。実施されれば、自然増プラス・アルファの医療費増加が見込まれ、短期的にも中長期的にも、医療保険財政にとって憂慮すべき材料となる。
われわれは、診療報酬にしても医師数・医学部定員にしても、一律底上げについては反対である。まず、救急、産科、小児、外科など、必要性が高いとされながら、これまでの診療報酬改定で点数引き上げが実施されても充実されない医療分野の抜本的な改革を望みたい。また、診療科や地域での医師の充足に対する突っ込んだ検討がほしい。さらには偏在の是正を図ることや、医療機関同士の連携をスムーズにして、患者受け入れ体制の整備を図ることなど、基本的な問題を解決したい。質が高く効率的な医療体制を築くことが先決と考える。世界に冠たる医療保険制度が崩壊しないように、限りある医療費資源を効率的に活用することが大事なのではないか。
(T・M)