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結核を取り巻く諸問題と最新知識

〜見直された結核対策と診断技術〜 |
5月28日、大阪商工会議所で健康教室を開催。関西大学 社会安全学部 教授 高鳥毛敏雄氏が「結核を取り巻く諸問題と最新知識」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨) |
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高鳥毛敏雄氏 |
結核菌と人間のつきあいの歴史は長い。結核菌に感染した90%以上の者はそれに気づかずに既感染者として生活している。既感染者のなかから生涯にわたり一定の割合で結核患者が発生し続ける。結核問題を簡単に克服できない理由がここにある。ここ10年は結核対策の見直しの時代であった。
結核は、かつては国民病であり、国や産業界にとっても、貴重な人材を喪失する由々しき問題であった。そのために保健所、健診、療養所、公費負担制度などが設けられ、国、自治体、学校、産業界、医学界も巻き込んだ社会の総力を挙げたシステムが作られ、その結果として結核罹患率が順調に低下してきた。1970年代に結核治療の特効薬となるリファンピシン(RFP)が登場したことにより、21世紀初頭には結核問題は解決できると楽観視されていた。
ところが現実には、皮肉にも1980年代から結核の罹患率の低下速度が鈍化しはじめ、1999年に厚生省(当時)、日本医師会、結核予防会の三者により「結核緊急事態宣言」が発令されるに至った。これを契機として、結核予防法が改正され、結核対策のコンセプトの大幅な見直しが進められてきている。
大きく変化した点は、入院中心の治療から外来治療が重視されたことであり、入院期間は短縮されている。排菌患者に対し、入院中の病棟における看護師による服薬支援にはじまり、退院後は保健所の保健師による服薬支援がなされるようになった。
さらにツベルクリン検査とBCG接種のあり方も見直された。小学校と中学校で行われていたBCG再接種が廃止され、BCG接種は乳児期のBCG直接接種のみとされた。乳児期のBCG接種も近い将来廃止されることになっている。
結核健診についてもすべての人々を対象としたものから、ハイリスク者や排菌患者の周囲の人に対する健診に重点がおかれることとなった。接触者健診で感染者と判定された者は、潜在性結核感染症患者として治療管理されるようになった。
結核対策が適切に行われるためには、まず発症した患者が医療機関を受診する。次いで受診患者に対し医師が適切な検査を行い、結核の診断を早期に行うことにある。そして、医師が結核の発生届を保健所に提出することが前提条件となっているが、結核を適切に医師が診断できなければ結核対策は機能不全となる。現在、結核を診断、治療できる医師が少なくなってきている。
また、結核専門病院が減少してきているため、今後は市中の一般病院の果たす役割が大きなものとなる。したがって、市中のすべての医療機関が結核患者の診断を適切に行えるような診療支援体制の整備が大きな課題となっている。
結核菌の遺伝子が解読されたことにより、結核菌の検査技術が大幅に発展した。遺伝子検出技術、同定検査、薬剤感受性検査も簡便化、迅速化されている。感染源追求についても、患者間のつながりを結核菌の遺伝子型別分類技術(VNTR)の進歩により分別できるようになっている。
また、結核感染診断がツベルクリン検査からクオンティフェロン(QFT)検査に移行してきている。ツベルクリン検査はBCG接種の影響を強く受ける検査であるが、クオンティフェロン検査はBCG接種の影響を受けない検査であり、1回の採血のみで判定できる。ただし、乳幼児については現在もツベルクリン検査が行われている。
結核菌は辛抱強い菌である。結核に対する認識が低下してきたときに結核が再興してくる可能性がある。ニューヨーク、ロンドンで結核が再興したことは有名である。わが国は、緊急事態宣言後は努力の甲斐があって結核罹患率は低下している。
しかし、わが国の周辺国は結核の罹患率が高く、欧米諸国のように輸入感染症として持ち込まれ、再流行する可能性がある。結核はまだまだ警戒を怠ることのできない感染症であると認識してもらいたい。 |
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