広報誌「かけはし」
 
■2010年6月 No.465
時評

健保組合の責務と誇りを現場の力に


 桜前線が北上を始めてまもないころ、健保連が発表した平成22年度健保組合予算早期集計は全1462組合の被保険者1567万4364人、被扶養者1389万2477人という数を告げている。前年度比でそれぞれ2.15%、1.63%の減ではあるが、合わせて2956万6841人。健保運営の最前線に立つわれわれを支える数字として深く認識しておきたい。
 わが国最初の社会保険立法である健康保険法は第一次世界大戦、米騒動、恐慌、慢性的不況という社会状況を背景にして大正11年(1922年)4月に制定され、関東大震災を経て昭和2年(1927年)1月に全面実施。さらに、第二次世界大戦、戦後の混乱期、近年では阪神淡路大震災などの災害を経験し、社会の変容に伴って改定を重ねてきた。
 この間、平常時と非常時を問わず、被保険者と家族の疾病予防と健康維持という重要な役割を果たし、医療保険制度のけん引役となってきたのが健保組合だ。その9割が経常収支の赤字に陥(おちい)り、赤字の総計が6605億円におよぶとも早期集計は伝えている。
 「拠出金・納付金が重く、保険者機能の大きな特質である保健事業をカットせざるを得ない」「運営が維持できず、解散の恐れさえある・・・」。さまざまな機会に聞く悔しさと無念と苦悩。それは過去最悪の赤字に象徴される個々の健保組合の声ではないか。
 健保組合を取り巻く財政環境が急速に好転することはないだろう。日本が世界に類例のない少子高齢化の道をたどる限り、われわれはこれまでに経験したことのない中長期的な非常時のなかに突入したと言わざるを得ない。
 健保連の平井克彦会長はこの春の臨時総会で健保組合に対しては「団結と連帯」とともに「現場主義」を強く呼びかけ、国に対しては医療制度・医療保険制度のグランドデザインの構築を求めている。「現場」とは健保運営の最前線にある健保組合と被保険者と家族のいる位置であり、制度全体を俯瞰(ふかん)すべきグランドデザインにもその視点は重要なものになる。
 被保険者と家族の健康の維持・向上は個人の平穏な暮らしと事業所の経営を確立させる重要な基礎であり、すなわち、わが国の社会的、経済的基盤を支えるものの一つに健保組合があることを意味している。
 早期集計の春は健保組合が1年で最も多く被保険者証を発行する季節でもあった。カードであれ、紙であれ、そこには日本の総人口約1億2700万人の4分の1に相当する人々の名がある。よって立つ法の歴史とともにわれわれの責務と誇りと行動の原動力となるに足る数ではないか。立ちすくんでいるわけにはいかない。桜のころから2カ月半。国庫補助の肩代わりという新たな苦悩が迫った雨の季節のなかで改めてそう考えている。
  (S・I)