広報誌「かけはし」

■2009年12月 No.459
 
 
動脈硬化と虚血性心疾患

〜 循環器疾患の予防と診療 〜

 11月10日、薬業年金会館で健康教室を開催。健保連大阪中央病院循環器科医長 西田義治氏が「動脈硬化と虚血性心疾患〜循環器疾患の予防と診療〜」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)

 

 

西田 義治氏

  近年、わが国でも食生活の欧米化や運動不足により、動脈硬化性疾患が急増している。2007年厚生労働省の人口動態統計によれば、動脈硬化性疾患として心疾患と脳血管疾患を合わせると全死亡のうち27・3%を占め、癌死に匹敵することが報告されている。日本人の脂質摂取量は年々増加し、1990年以後はエネルギー摂取中の脂質エネルギー比率の上限値である25%を超えている。また、血清コレステロール値も年々増加しており、現在は米国とほぼ同等になっている。脂質異常症のなかでも、高LDL―コレステロール(以下、LDL―C)血症は多くの疫学調査から、冠動脈疾患の独立した危険因子であることが確立している。しかし、薬物治療でLDL―Cを十分に下げても冠動脈疾患の発症を20〜35%しか減少させることができず、LDL―Cを下げるだけで十分かとの憂慮からコレステロールを越えた動脈硬化予防策が模索された。そこでメタボリックシンドロームという概念が注目されるようになった。
 メタボリックシンドローム(以下、メタボ)とは、「内臓脂肪の蓄積」を上流にもち、高血圧、脂質異常症、耐糖能異常などの動脈硬化危険因子が集積している病態を表す概念である。1980年代後半、動脈硬化危険因子が集積する病態を内臓脂肪症候群、シンドロームX、死の四重奏およびインスリン抵抗性症候群等と提唱されたが、1999年、メタボという名称で統一された。1990年代後半、従来単なるエネルギー備蓄臓器と思われていた脂肪組織が、さまざまな生理活性物質を高頻度に発現していることが明らかになり、これらの脂肪細胞由来分子を総称してアディポサイトカインと名づけた。その一分子であるアディポネクチンが、大阪大学細胞工学センターと大阪大学医学部分子制御内科学(旧大阪大学第二内科)の共同研究により同定された。アディポネクチンは、動脈硬化伸展におけるさまざまな過程を抑制する分子であり、肥満、特に内臓脂肪蓄積時に血中濃度が減少する。内臓脂肪蓄積時には、高血圧、脂質異常症、耐糖能異常といった動脈硬化の危険因子を合併するだけでなく、より直接的なアディポサイトカイン分泌異常を伴うことにより動脈硬化の危険を高めている可能性がある。メタボ治療の基本は、ライフスタイルを改善し病態の上流に位置する内臓脂肪を減らすことである。
 虚血性心疾患の検査には、安静時・負荷心電図、頚動脈・心エコー、冠動脈CTおよび冠動脈造影等がある。治療としては、薬物療法、経皮的冠動脈インターベンション(以下、PCI)および冠動脈バイパス術(以下、CABG)などの治療法がある。PCI領域での画期的な発明は、ステント留置後の再狭窄率が非常に低い薬物溶出ステントの開発である。
 39歳以下で虚血性心疾患を伴ったメタボ患者の症例提示。2000年6月6日から2009年10月31日まで当院で5825件の冠動脈造影を施行。39歳以下の症例は44件( 23名、女性2名)。PCI施行例はすべて男性で、2名の家族性高コレステロール血症患者を除けば、10件(4名)であった。1名はCABG施行。PCIまたはCABGを施行した5名はすべてメタボ患者で、2名は自覚症状が全くない無症候性心筋虚血、2名は急性冠症候群、1名は陳旧性心筋梗塞患者であった。メタボ患者では、たとえ各々の危険因子が軽微な異常だとしてもそれが集積する場合、年齢や症状の有無にかかわらず虚血性心疾患のスクリーニングが必要である。


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