広報誌「かけはし」
 
2008年10月 No.445

 
内臓脂肪症候群
 9月11日、薬業年金会館で健康セミナーを開催。大阪大学大学院 内分泌・代謝内科学 講師 中村正氏が「内臓脂肪症候群」をテーマに講演されました。(以下に講演要旨)
 

中村 正氏


◆内臓脂肪症候群

 内臓脂肪症候群とは、メタボリックシンドローム(MetS)の和名表記で、ほぼ同じ意味で捉えられています。
 高血糖や高血圧、脂質異常などのリスクが複合し、動脈硬化疾患である心疾患、脳卒中などの重大な病気にかかる危険性が急激に高まることをいいます。各リスクが軽度の場合でも、重なっている状態は非常に危険と考えてよいでしょう。

  ◆肥満と内臓脂肪の関係は
 

 メタボリックシンドロームが注目された背景には「肥満」が大きく関わっています。肥満には違いがあり、男・女によって脂肪のつき方が違います。男性に多い「リンゴ型」は内臓脂肪、女性に多い「洋ナシ型」は皮下脂肪が主な構成要因となっています。メタボリックシンドロームの発症には、内臓脂肪が深く関わっています。
 こういった肥満の原因となる脂肪組織は、さまざまな生理活性物質を分泌しています。そのなかの、脂肪細胞から特異的に分泌されるアディポネクチンは、動脈硬化を防いだり、糖尿病になりにくくする作用をもつ善玉物質です。ただし、内臓脂肪量が増えると、血中のアディポネクチンは減少し、血管の詰まりを引き起こす血栓関連因子のPAI─1(パイワン)などの悪玉物質が増加してしまいます。
 さらに、内臓脂肪が増えすぎると、肝臓での脂質生産に異常があらわれます。脂肪の量が過剰になると、脂肪処理能力も低下し、血液中にうっ滞して脂質異常を促進します。

  ◆「腹囲」の診断基準
 

 今年度から始まった特定健診における診断基準のなかに「腹囲」がありますが、男性に厳しいのはなぜかというと、前述のとおり、男性に多いリンゴ型肥満にみられる内臓脂肪がメタボリックシンドロームに大きく関係するからです。腹囲の測定は高血糖や高血圧、脂質異常などのリスクの重なりを検出する指標ではなく、内臓脂肪の蓄積を推定する指標なのです。
 また、内臓脂肪が増加してくるのは40歳を過ぎたころからという研究結果からみても、健診対象年齢は合致しているのではないでしょうか。

  ◆身体活動の重要性
 

 日ごろから運動している人とそうでない人を比べると、運動している人のほうが、肥満、非肥満を問わず、内臓脂肪が蓄積していない傾向にあります。運動によって内臓脂肪がたまらないという代表例が「お相撲さん」です。毎日5、000〜10、000kcalのエネルギーを摂取していますが、その分毎日の稽古でものすごい運動をしています。CTスキャンでみると、筋肉と皮下脂肪で、内臓脂肪はほとんどありません。毎日の運動で内臓脂肪を燃焼させ、筋肉へのエネルギーとして活用しているのです。
 こういった結果から、運動は生活習慣の改善に非常に効果があるといえます。激しい運動でなくても、日常生活のなかでの動作や活動も有効で、たとえば、通勤中の電車では座らずに立つ、職場でもこまめに動くなどのチョコマカ運動がメタボリックシンドローム予防につながります。

  ◆メタボリックシンドローム対策
 

 メタボリックシンドロームと診断された場合、まず、その病態が危険であることを理解しましょう。そして、自分自身でその病態(病識)を認識し、自らが進んでいままでの生活習慣を改善する姿勢を示すことが重要です。ただし、自分に過度の負担をかける方法は避け、家族の協力も大きな力になることも覚えておきましょう。
 「1に運動、2に食事、しっかり禁煙、最後にクスリ」をモットーに、ウエスト3p・体重3s減らす「サンサン運動」を心がけてみましょう。

 

 
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