広報誌「かけはし」

■2007年11月 No.434
 
 
ニコチン依存症

─ 禁煙外来の実際 ─

 10月31日、薬業年金会館で健康教室を開きました。この日は45組合から58名が出席。健保連大阪中央病院内科医長・武田悦子氏が「ニコチン依存症─禁煙外来の実際─」をテーマに講演を行いました。(以下は講演のポイント)

   喫煙は病気です
 

 

武田悦子氏

 今年5月に発表された2005年国民健康・栄養調査によると、成人の喫煙率は男性が39・3%で初めて4割を切り、女性は11・3%で横ばいとなっていることがわかりました。喫煙は「ニコチン依存症」という病気です。ニコチン依存症は2006年4月から健康保険が適用され、「治療すべき病気」になりました。
 ニコチン依存症の診断基準は、@喫煙の強い欲望・切迫感A喫煙の開始・終了・程度の制御困難B節煙・禁煙に伴う離脱症状C耐性Dたばこ以外への関心低下E害を認知の上で喫煙─以上を1カ月以上持続、または過去12カ月に反復して3項目以上該当することです。また、米国公衆衛生局のガイドラインには、たばこ依存について、@アヘンや覚せい剤依存などに匹敵するまさに薬物依存A長期の臨床介入療法を必要とする慢性疾患B再発が多いのが特徴。医師や患者の失敗のためではない─と書かれています。したがって、喫煙者本人の意志が弱いから禁煙できないのではなく、喫煙そのものが病気であるので治療を受けた方がやめやすいという認識が必要です。

   生活習慣病との関係
 喫煙と病気との関係についてみると、たばこの煙に含まれる3大物質(ニコチン、タール、一酸化炭素)などの影響により、生活習慣病等の罹患リスクが高くなります。厚生労働省研究班の調査によると、喫煙者は非喫煙者に比べて、くも膜下出血の発症リスクが3倍ほど高くなることがわかりました。脳卒中全体でみても男性が1・3倍、女性が2倍となっています。喫煙習慣とメタボリックシンドロームリスクとの関係を示した別の調査(健診受診の男性35〜59歳)では、非喫煙者に対して1日20本までの喫煙者で1・14倍、30本までの人で1・45倍、30本を超える人で1・59倍のリスクがあることが明らかになっています。
 たばこ関連の死亡数(2000年)は約11万人、内訳は男性9万人、女性2万人。たばこによる死のリスクは高血圧、糖尿病、肥満をしのいでいます。喫煙とがんの関係でも著しい相関があり、喫煙者は非喫煙者に比べて、全がんで1・65倍高く、疾患別では咽頭がんが実に32・5倍、肺がん4・5倍、食道がん2・2倍と続き、以下、消化器、泌尿器などすべてのがんリスクが喫煙者の場合に高くなっています。

   受動喫煙防止対策・禁煙外来
 「健康日本21」での目標に掲げられたことや、健康増進法に規定されたこともあり、このところ禁煙や受動喫煙防止の機運は高まっています。東京・千代田区で最初に路上喫煙禁止条例ができ、遅ればせながら大阪市でもこの10月から御堂筋周辺が歩きたばこ禁止となりました。しかし、私鉄、東海道新幹線にみられるように禁煙スペースの徹底は、東高西低の状況となっています。
 当院では、2007年1月から「禁煙外来」を保険診療で実施していますが、6月までの実績では、初診(新患)34人のうち4週までは29人(85%)と順調も、徐々に脱落し8週は21人(61%)、最後の12週目まで受診したのは14人(41%)、うち13人(38%)が禁煙に成功しました。参考までに今年4月の中医協調査による禁煙成功率は約30%で、受診回数が多いほど禁煙率は向上することがわかっています。禁煙は、あきらめずに何回もチャレンジすることがたいせつです。
 世界のタバコ対策の目標は「タバコのない世界」です。