広報誌「かけはし」
 
2007年7月 No.430

 
メタボリックシンドロームの病態
 6月22日、健保連大阪連合会大会議室で健康セミナーを開催し、健保連大阪中央病院 副院長 久保正治氏が講演されました。

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  ◆動脈硬化性心・血管疾患の
   リスクファクターとしてのメタボリックシンドローム
 

久保正治氏

 リスクファクターのうち高コレステロール血症は、優れた薬剤のおかげで克服されつつあり、次の重要なテーマは内臓蓄積肥満を基盤として起こってくるメタボリックシンドロームと考えられます。その診断のために、日本内科学会をはじめとする関連する8学会が合同で基準を設定し、2005年春に発表しました。この基準では内臓脂肪蓄積の評価をCTで測定する代わりに、ウエスト周囲径測定によって評価するもので、診療所や健診でも用いることができる点が有利です。
 

  ◆メタボリックシンドロームの診断基準
 

 この診断基準では、CTによる内臓脂肪面積100㎠に相当する内臓脂肪蓄積を、臍レベルの腹囲の測定値で評価するもので、男性は85p以上、女性は90p以上を必須項目としました。これに加えて、
1. トリグリセライド150r/㎗以上 または HDLコレステロール40r/㎗未満

2.

収縮期血圧130oHg以上 または 拡張期血圧85oHg以上

3.

空腹時血糖110r/㎗以上

 

のうち2項目以上当てはまる場合をメタボリックシンドロームと呼ぶことになりました。
 この基準は有名になり、「メタボ」として多くの人に親しまれたため、内臓脂肪蓄積が動脈硬化性心・血管疾患の誘因であることを知っていただくよいきっかけになりました。
 

  ◆高血圧、高脂血症、糖尿病、喫煙や肥満症
 

 それでは、従来からこれらの疾患がある場合はどう考えればいいのでしょうか?
 高血圧や高コレステロール血症に対しては優れた薬品を利用して、適切なコントロールを受けるのが格段に容易になっています。糖尿病も適切な薬物の使用によって積極的な治療が当然です。メタボリックシンドロームはこれらの疾患を包含するものと考えれば理解しやすいと思います。
 喫煙は大きなリスクファクターで克服しづらい項目ですが、昨年から保険診療でもニコチン依存症として診療を受けることができるようになりました。禁煙によるリスクファクター改善効果は大きいので愛煙家はぜひ考慮してください。
 肥満症についてはどうでしょうか。お相撲さんは、内臓脂肪は少なく皮下脂肪は多量に蓄積し筋肉や骨がよく発達しているので、身長から割り出した標準体重から言うと肥満に分類されます。しかし、これは体重を減す必要のない“悪くない”肥満(過体重状態)といえ、代謝面からは問題はありません。一方で、肥満でなくとも内臓脂肪が蓄積し、改善が必要な状況はありますので安心は禁物です。
 

  ◆労災保険の二次健診
 

 1989年にKaplan NMが死の四重奏(The Deadly Quartet)という動脈硬化性疾患のリスクファクターの集合した疾患概念を提唱し、その見事な命名から広く知られています。我が国ではこれに該当する症例を対象に、労災保険による動脈硬化性疾患の早期発見を目指した二次健診が行われていますが、残念ながらあまり利用されていないようです。
 

  ◆メタボリックシンドロームの改善とアディポネクチン
 

 メタボリックシンドロームの改善には、食生活の是正(食事療法)と身体活動の増加(運動療法)を中心とした生活習慣の改善が重要です。その具体的な内容については、従来からのさまざまな療法が有効です。とくに内臓脂肪は運動によって減少しやすいので、がんばり甲斐があります。
 また、内臓脂肪はさまざまな物質を分泌していることが分かってきました。内臓脂肪から分泌されるアディポネクチンの血中濃度は、内臓脂肪量が増加すると低値を示すことが分かっています。この物質は直接的に動脈硬化巣に作用して障害を修復することが分かってきましたので、内臓脂肪が増えると動脈硬化が進むということになります。この領域の今後のさらなる発展が期待されています。