広報誌「かけはし」
   
■2006年11月 No.422

 『外国医療問題研究調査団』 概況報告

 
1.医療保険制度の概要

 ドイツの医療保険制度は、皆保険ではなく、国民の約90%が公的医療保険制度(GKV)に加入し、残り約10%は民間保険(PKV)に加入している。
 公的医療保険制度を運営しているのは、わが国の健保組合のモデルともなった、「疾病金庫」(Krankenkasse)と呼ばれる公法人の保険者組織であり、地域・企業・職種など、8種類の疾病金庫がある。
 財源は、独立採算制のもと、国庫補助はほとんどなく、保険料収入によって賄われており、保険料は原則、労使折半負担で、被保険者の総労働報酬に各金庫が定める料率を乗じて算出される。保険料は平均14%程度である。
 なお、疾病金庫間には、性別、年齢、所得、扶養率など加入者の特性やリスク構造の違いから生じる財政格差を是正するため、「リスク構造調整」(RSA)と呼ばれる財政調整措置が導入されている。

2.2004年改革のポイント

(1)被保険者による疾病コストへの適切な関与(患者負担の引き上げ)
○1回の外来診療につき10ユーロの診察料の窓口負担 
(2)薬剤・補助具の自己負担方法の変更
○薬 剤:最低5ユーロ、最高10ユーロの限度額付き定額負担
○補助具:月額10ユーロを上限とする1割の定率負担
(3)患者主権の強化
○連邦共同委員会への患者団体の参加
○患者への疾病金庫の財務状況に関する情報取得の権限付与
○医師・医療機関における医療費や給付に関する情報の開示
(4)医療提供構造の改革
○家庭医中心の医療提供形式の促進(疾病金庫と家庭医間の契約)
○総合診療形態の促進:専門診療科目を越えた連携による医療機関のグループをサービス単位として委託契約
(5)国税(たばこ税)の導入
○母性保護給付、出産手当金、児童が病気の場合の傷病手当金
 

金庫名 対象者(疾病金庫の選択権あり 金庫数
地区疾病金庫(AOK) 地域住民、失業者、学生

17

企業疾病金庫(BKK) 大企業の被用者

210

同業疾病金庫(IKK) 手工業者

19

農業疾病金庫(LKK) 農業経営者、農業従事者

9

労働者/職員代替金庫 一般労働者、職員

10

海員疾病金庫(SEEKK) 海員(船員)労働者

1

連邦鉱夫組合(BKN) 鉱山労働者

1

疾病金庫 合計

267

 

ドイツにおける調査結果の概要

1.思い切った医療費抑制策を断行し、医療保険財政が34億ユーロの医療保険財政赤字から40億ユーロの黒字に転じるなど、改革が目標どおり成功している状況にある。また、現在、06年改革法案として、保険者間および医療提供者間の競争をさらに強化する方向のもとで「競争強化法」という新たな法律案が審議されている(※内々に法案のドラフトを入手した)。
2.従来の労使折半を原則とした保険料収入に加え、保険原則と給付特性の観点から、母性保護給付、出産手当金など一部の給付財源に対して「たばこ税」を投入したことが、医療保険財政再建を成功に導いた大きな要因と考えられる。
3.家庭医を中心とした医療供給形態(「家庭医モデル」)を現在、モデル事業のもと進めているところであり、一般普及にはいまだ時間を要するとの見解が示された。また、家庭医モデルと合わせて、効率的な医療提供の観点から外来診療において、専門科目の垣根を越えて医療機関を一つのグループとする「総合医療センター」(ポリクリニック)の普及・拡大が進められている。
4.加入者獲得のため、各金庫が独自に展開しているボーナスプログラムによる保険料の還元やボーナス給付については、金庫間でプログラム内容にあまり差がなく、加入者からの評価が低いなど、あまりうまくいっていないのが現状である。
5.年齢・性別・扶養率・所得の4つのリスク要因を指標とした「リスク構造調整」(RSA)については、罹患率(有病率)の導入をめぐって、現在、激しい議論が行われており、いまだ結論には至っていない。保健省としてはあくまでも保険料を引き下げるための施策と位置付けているが、罹患率をめぐってはBKKなどのRSAの拠出側と、AOKなどの交付を受ける側とで見解が大きく異なっている。
6.「患者主権」を強化し、患者が制度運営に参加する動きがみられる。具体的には、疾病金庫の連邦共同委員会への患者団体の参加が認められたほか、患者には、?疾病金庫の財務状況に関する情報取得の権限、?医師、病院に対しての費用や給付に関する情報開示の請求権?が付与された。
7.「競争強化法」という新たな法律案が審議されているように、今後も疾病金庫間の競争がさらに強化されることが予想されるが、政府側は、競争のもとで疾病金庫間のさらなる統合・合併を後押ししている印象を受けた。
 

〔わが国への示唆〕
○政府と疾病金庫の役割を明確にしたうえで、たばこ税の導入など、思い切った財源政策が採られている。
○患者団体が疾病金庫の運営委員会に参画するなど、制度運営に患者の意見を反映させる動きがみられる。
 

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