広報誌「かけはし」

■2005年12月 No.411
時評

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人格障害とは?

〜その理解とかかわり方〜

岡 達治氏


 11月22日、健保連大阪中央病院で「人格障害とは?〜その理解とかかわり方〜」をテーマに、医療法人清風会茨木病院診療部長の岡達治氏による保健師連絡協議会研修会が行われました。


人格障害とは

 大雑把な言い方をすれば、嫌な人、不愉快な人、困った人を人格障害ということができます。人格障害の人は普段弱々しいのに、何かあると非常にサディスティックになったりします。いったん関わると巻き込まれて逃げられなくなります。関わる人によって展開が変わるのが特徴。これをプロセスの相対性といいます。人格障害の人は不愉快で困った存在ですが、場合によってはかわいそうな人になることも。そうした矛盾した人間関係が別々のところで起こることをスプリッティング(分裂)と呼びます。人格障害の人と接していると、無意識的に不愉快さが押しつけられるように感じますが、これは患者の被害者意識が非言語レベルで治療者に投影される投影同一化が起こるためです。

人格障害の医療化

 人格障害の人が衝動的になると器物損壊や自殺企図、自傷行為など医療や司法との接点が発生することになります。彼らは自我の力が弱く、衝動的で、人間の本能部分や無意識に触れやすく、これは魅力やエロスにもつながっています。治療者がエロスの部分と関わってしまうと、患者との間に抱えきれない問題があふれ、自傷や暴力などの問題行動として行動化されます。人格障害は「臨床症状」の背景にあるもので、抑うつや不安などと同レベルには扱えません。また、問題を否認し、外在化させることも人格障害の特徴です。

なぜ人格障害が増えたか

 抑うつや行動障害などを媒介に、医療機関にかかる機会が増えたこと、社会規範が十分機能せず、人格障害であることが許容されるようになったことが増加したように見える要因。さらに、人格障害は疾患という見方が成立し、医療の問題だと認識されるようになったことも一因。マスコミで取り上げられて知られるようになったことも、増加したように見える原因です。

人格障害と関係性

 人格障害は症状の羅列だけでは理解できず、その人の関係性が必要。自分がどう思うか、どう感じるか、さらに相手がどう感じるかを知らないと診断できない力動精神医学の立場を取っています。患者が治療者との間に持ち込む関係性を「転移」、治療者がそれによって誘発される関係性を「逆転移」、両者を「転移逆転移」といいます。人格障害(特に境界例)では、通常の精神疾患に比べ、転移逆転移が素早く強力に出現するのが特徴です。

人格障害の傾向と対策

 外在化を阻止するためにできるだけ自己責任へと還元します。また「あなたを救います」などといって、魔術的な治癒の期待を与えないようにすること。自分自身はどのような立場で治療をしているか、自分の意見を持ち、主体性を維持しておくことが大切です。

マネージメントと治療

 行動障害に対してはマネージメントが必要。入院させるなら、行動管理ができる閉鎖病棟を。しかし、本人が入院を希望していても入院させない方がいい場合がほとんど。まず病院をきちんと見せて、入院すれば何とかなる、という期待をなくします。ただし、事態が切迫している場合には保護者を立てて家族の責任で入院させましょう。自傷他害のおそれもあるので、場合によっては措置入院もあり得ます。