広報誌「かけはし」
  
■2005年6月 No.405

PET(陽電子放射断層像)の
発生と変遷・PETの臨床応用
   
 平成17年5月23日、薬業年金会館で「PET(陽電子放射断層像)の発生と変遷・PETの臨床応用」をテーマに、熊本大学医学部保健学科教授の冨吉勝美氏による健康教室が開催されました。

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●脳PETから 全身PETへ

冨吉勝美氏

 PET(陽電子放射断層像)は当初、脳機能や心、人間の精神の動きなどを研究するために開発されました。商業ベースに乗るようになったのは1970年代のことです。
 臨床PETには@放射性核種をつくるサイクロトロン、A断層像をつくるコンピュータによるPET装置、B画像を生み出す放射性薬剤の3つが必要です。これらはいずれも1970年代に飛躍的に発達しました。当初開発された放射性薬剤は半減期が5730年と長く、ベータ線放射のため生体画像には不適切でしたが、1970年代に、半減期が110分と短いポジトロン核種の放射性薬剤FDG(Fluoro-Deoxy-Glucose)が日本人の井戸教授によって開発されました。これを人体に投与すると、FDGはリン酸代謝を起こし、そこから放射線を出します。それを画像によって測定、異常を発見します。当初、これは脳の研究に使われていました。しかし、FDGががんにも取り込まれることがわかり、PETががんの診断に利用されるようになりました。FDGを使うと、短時間に全身のがんを検索することができます。現在はFDGのほぼ95%ががんの検索に、残りが脳と心臓の診断や研究に利用されています。PETの分解能は当初の10〜15ミリから、3〜4ミリ程度に向上、診断時間は薬剤の投与から検査まで2時間以内と短時間ですみます。がんの検出率も2・3%と非常に高く、有用性が認められています。

  
●PETの臨床応用
 

 こうしてFDGは世界的にもスタンダードなオールマイティの放射線薬剤になりました。臨床PETにおけるFDGの使用率は95%にも上ります。しかし、FDGは脳や腎臓、肝臓などに強く集積し、そのほかにも骨格筋や胃、結腸、心臓、腸などにも集まることがわかっています。したがって、これらの部位のがんは発見しにくいという短所があります。
 そこで臨床PETにおいてはFDG以外の薬剤も使用されるようになりました。原子核を13にしたアンモニアは心臓、心筋に集積されるので心臓疾患の診断に利用されます。18FAMTはアミノ酸代謝をみる薬剤です。アミノ酸もがん細胞には強く集積するので、腫瘍を検索することができます。しかし、腎臓や膀胱を通して排出されるため、これらのがんについては発見しにくいのが18FAMTの弱点です。一方、11C─コリンは腎臓や膀胱には集積しないので18FAMTの欠点を補うことができます。
 こうした放射性薬剤の使用時に気がかりなのが被ばく線量。FDGでは1回の投与でおよそ2・2ミリシーベルト被ばくするとされています。自然界における年間被ばく線量が2・4ミリシーベルトですから、人体には影響のない線量といえます。