広報誌「かけはし」

■2005年2月 No.401
時評
 

産業保健現場に役立つアサーション

〜メンタルヘルスに必要なコミュニケーション・スキルとして〜

平木典子氏

 「産業保健現場に役立つアサーション〜メンタルヘルスに必要なコミュニケーション・スキルとして〜」をテーマに、日本女子大学人間社会学部心理学科教授の平木典子氏による保健師連絡協議会研修会が、1月14日、大阪中央病院で開催されました。講義のあと交流を兼ねたグループワークと意見交換も行われました。

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自己表現がテーマ
 アサーションとは、自己表現のことです。互いによいコミュニケーションをするために、どんな自己表現をすればよいかということが中心のテーマです。
 アサーションが注目されている背景には2つの理由があります。ひとつは人の動きが激しくなり、お互いの違いを認め合う必要性が高まったということと、効率性重視の社会になってきたということ。極端な効率主義社会では自分の消耗度をきちんと自覚し、表現できる人が育たなければ、問題が拡大する一方です。
 もうひとつは、社会が人間関係を軽視する傾向にあるということ。アサーションは人間関係を大切にするやりとりなので、人間関係を回復させる方向づくりの一助になると思います。
 
3つのコミュニケーション

 コミュニケーションにはいくつかのパターンがあります。
(1)非主張的 自分を抑えて相手を立てる自己表現。自分の思いを表現しないため、理解されにくく、結果的に怒りをためてしまうので、あまり健康的な方法ではありません。
(2)攻撃的 自分を主張して相手を抑えたり、無視したりする自己表現。丁寧でにこやかでも、相手にノーをいわせない雰囲気があれば、それは攻撃的です。こういう人は親しみをもたれなかったり、孤立するかもしれず、精神的に安定しているとはいえない可能性があります。
(3)アサーティブ 自分も相手も大切にする自己表現。自分の思いや考えを正直に素直に表現することが重要なポイントです。
 さらに、アサーションには2つの段階があります。
(1)@自分の気持ち、考えを明確にする。Aその気持ち、考えを言語化する。
(2)@相手がどう受け止めるかを待つ。A相手を理解する(受け止める)。
 相手の反応はイエスのときもノーのときもあります。相手を理解することは同意することではありません。ノーという権利もあります。
 

気持ちを受け止めて

 日常、相手の頼みを断るという対立、葛藤の場面では理屈で断りがちですが、理屈は理屈で壊されます。むしろ「したくない」という気持ちを伝えることが大切です。
 人間には自己表現の権利、思ったことを伝えてよいという権利があります。伝えないと相手はわかりません。また、アサーティブな考え方はアサーティブな行動につながります。アサーションがしにくいと感じる場面では、自己表現ではなく、考え方で自分にブレーキをかけている可能性もあります。考えをアサーティブにすると表現もアサーティブになります。そして日常生活のなかで人の気持ちを受け止める機会を増やしてほしいと思います。
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