広報誌「かけはし」

■2004年1月 No.388
 
 昨年12月17日、平成16年度予算編成説明会の開催にあわせて、診療報酬改定の論議、制度改革の動向等直近の中央情勢について、元厚生省審議官、帝京平成大学教授和田勝氏から講演をいただいた。
 

和田 勝氏

   社会保障制度をめぐる動き
   社会保障制度は、日本の社会において重みを増してきた。昨今の厳しい経済財政状況のなかで社会保障制度の再構築をどう進めるのか。社会保障の大きな柱の一つである年金制度は、国の経済力、国民や事業主の負担能力に見合った制度とする必要があるという観点から、将来の保険料負担の上限を決める、これに見合う給付水準にするというように、負担能力からの発想に切り替えられた。また、国民年金への未加入、保険料の未納問題が年金制度の空洞化、信頼の低下として問題化してきた。
 日本の社会保障は、一人ひとりの自立した個人の理解と参加に基づく社会保険制度を基本としており、社会的連帯によって支えられている。この社会保険システムを将来にわたって維持していくことが課題である。
 
   診療報酬改定の論議
   今回の年金改革の柱の一つは、基礎年金への国庫負担率を現行の3分の1から2分の1に引き上げることであり、その財源として年金課税の強化がとりあげられ、所得税定率減税の見直しと消費税引き上げは、引き続き税制改正のなかで検討するとされた。
 こうなると来年度予算編成の最大の争点は医療費問題となる。医療費は、老人医療の定率負担、3割自己負担、2年前の診療報酬引き下げ等の要因で当面マイナス傾向にあるが、基本的には人口高齢化や医療の高度化等もあって、長期的には増加が避けられない。
 医療とその費用の成り行きを決める大きなファクターの一つが診療報酬改定である。概算要求(8月)段階で折り込めず決着はこの年末まで残されている。国の予算の項目のなかで一番大きなウェイトを占めているのは医療費である。また、実際に医療費の配分を決めるのが診療報酬点数表の改定である。
 診療報酬を決めるのは中医協。しかしながら国の財政という立場から財務省も保険局も当事者といってよい。主計局は経済財政諮問会議への提出資料のなかで、近年の賃金物価動向を踏まえて、マイナス改定を行う必要があるとしており、政府は4%の引き下げの方針を固めたとの報道もあった。
 これに対し、中医協の支払側も診療側も診療報酬改定は中医協で決める、これを尊重するという大原則があると主張した。支払側は前回程度の引き下げとし、診療側は医療安全対策と環境対策の強化を柱にプラスの改定が必要と主張していて、プラスとマイナスの差が8%位と開きが大きい。総枠をどう決めるかが年内の最大の仕事となるだろう。与党との調整等予想し難い様々な要素が絡むが予算編成最大の争点になっていくことは間違いない。
 年が明けてからの診療報酬改定の作業は、医療制度改革の基本方針に沿った診療報酬体系の改革の最初の試金石となり、来年4月の改定からできるものを取り込むということになっていくだろう。
 
   医療保険制度の改革
  昨年3月末の政府の基本方針においては、新たな高齢者医療制度については老健拠出金制度を廃止するものとされ、健保連の主張が実ったといえる。
 しかし前期高齢者層については、退職者医療制度の部分が延びて適用される格好となり、退職者拠出金が増えるという図式になる。厚生労働省の考え方には、前期および後期の高齢者の医療費に対する現役世代の負担をリスク構造調整の考え方として所得と年齢の両面で公平にしようという発想が生きていると思われるが、これが争点となってくる。
 保険者の再編統合も大問題である。政管の分割、健保組合の統合、これらの安定運営に国は何をしてくれるのか。もっと難しいのは国保である。地方分権、市町村合併の問題と重なってくる。
 介護保険、老人医療、国保そして年金制度の改革は一体として考えていかねばならない問題である。
 

(文責 健保連大阪連合会)