広報誌「かけはし」
 
2003年12月 No.387
糖尿病のはなし

   「糖尿病のはなし」と題し、健保連大阪中央病院栄養部長兼女性総合外来部長の中川智左氏による健康セミナーが、11月14日、薬業年金会館で開かれました。

 
※写真をクリックすると拡大写真がご覧になれます。
 

網膜症や腎症など怖い合併症の数々
 

中川智左氏

   糖尿病は近年増加の一途で、最近の統計では患者数690万人、糖尿病予備軍である境界型680万人の計1、370万人、全人口の一割にものぼりますが、このうち医療機関を受診しているのは40%あまりに過ぎません。患者数の増加には、食生活の変化、なかでも脂肪摂取量の増加や、運動量の軽減が大きく影響しています。
 糖尿病は膵臓からのインスリンの分泌低下や、末梢組織でのインスリン抵抗性によってもたらされるインスリンの作用不足の結果、筋肉や肝臓などでブドウ糖の取り込みや利用が低下し、慢性の高血糖を来たして全身の代謝障害を引き起こす疾患です。高血糖が続くと全身倦怠感や喉の乾き、頻尿、手足のしびれ、視力低下、急激な体重減少などの症状がみられますが、自覚症状の乏しいことも少なくありません。
 インスリンの分泌には遺伝的素因も関与し、日本人は分泌量の少ない民族といえます。一方インスリン抵抗性に大いに影響するのが環境因子で、肥満や食べ過ぎ、飲み過ぎ、運動不足などによってインスリンの作用が悪くなり、血糖値が上昇するのです。
 糖尿病で一番問題となるのが合併症です。全身の血管壁に障害をもたらし症状は多様ですが、細小血管障害により網膜症や腎症、神経障害といった特有の合併症が起こります。腎症は進行すると透析を必要とし、網膜症で重い眼底出血を起こすと失明に、神経障害は下肢の壊疽につながりかねません。こうした合併症は糖尿病の初期には症状が出ませんが、一旦発症すると完全に元に戻すのは困難です。最初の数年間の血糖管理は重要です。
 さらに糖尿病では大血管障害である脳梗塞や冠動脈疾患の発症率も高く、特に最近では心筋梗塞の発症の増加が問題となっています。高脂血症や高血圧、肥満が重なるとさらに危険です。血糖値だけでなく、血圧、コレステロール、中性脂肪も併せてコントロールしていくことが必要です。

血糖コントロールに大切な食事と運動
     糖尿病の治療は、食事と運動の生活習慣の管理と、薬物療法の二本立てですが、薬物療法を行う場合でも、食事と運動のセルフコントロールが非常に重要です。食事量を適正にするだけでも膵臓の負担を随分軽くすることができます。運動は継続することで得られる慢性効果が重要、毎日運動することでインスリン感受性が高まり、驚くほど血糖が下がることがあります。
 薬物療法には、インスリン分泌促進剤、インスリン抵抗性改善剤、食後過血糖改善剤などの経口血糖降下剤と、インスリン注射があります。経口剤もインスリンも新しい製剤が登場し、「さじ加減」の幅が広がっています。
 糖尿病の治療の目標は、良好なコントロール状態を維持し、同時に血圧、血清脂質、体重も適正値とすることで合併症を予防、QOL(生活の質)を落とさず健康な人と同等の生活を確保すること。地道なコントロールが自分自身を守ります。