総報酬制が導入され半年が過ぎた。被保険者や事業主への制度徹底、徴収システムの変更、事業主との打ち合わせ、賞与からの保険料徴収、月々の保険料収入減による繰替使用、一ヵ月早まった定時決定作業等、対応に追われた日々でもあった。
やっとひと段落し、振り返ってみると、いろいろ気になる点が浮かび上がってきた。
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健康保険制度の意義 |
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言うまでもなく我が国の健康保険制度は、いつ発生するか分からない本人や家族の疾病に対するセーフティネットとして無くてはならない制度である。
さらに、この制度を維持するために「お互いに負担しあう」という相互扶助の精神にもとづいた制度でもある。
何れかの医療保険に加入するという国民皆保険の仕組みは、世界に類を見ない素晴らしい体制と言われている。
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総報酬制導入の目的 |
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ところが、このかけがえのない制度が、出口の見えない財政危機に陥ってしまった。
廃止が望まれていた老人保健拠出金問題が平成19年まで先送りされた代わりに、起死回生のカンフル剤として導入されたのがこの総報酬制である。
さて、従来の保険料負担の問題点として、被保険者の年収に占める賞与の比率の大きい人ほど負担が軽いという不公平があった。
さらに、年俸制を導入する企業もあらわれるなど、賃金体系の多様化が進み、従来のような給与中心の保険料の徴収ではますます十分な対応ができなくなってくる。
このような背景から、導入された総報酬制の目的は、保険料を給与と賞与から同率で徴収することで、結果として増収を計ると共に、保険料負担の不公平を是正することであった、はずである。
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これで良いのか総報酬制 |
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以上を踏まえて、現状の総報酬制を眺めてみると、公平性の面で、「はたしてこれで良いのか」という疑問が次々と湧いてくる。「相互扶助の精神にもとづく健康保険料の応分の負担」という観点から、見直しの検討の余地があるのではないか。
@賞与や標準報酬月額に上限が設けられているのは如何なものか。
標準報酬月額の上限(98万円)を前提に賞与の上限額200万円が定められたと聞くが、本来標準報酬月額に上限があること自体が不自然ではないか。
これでは年収額が高額な者ほど負担は軽い、という構造に変わりは無い。
A総報酬を広義に理解し、総年収と捉えるほうが本来の総報酬制導入の趣旨にあうのではないか。
例えば、退職後(資格喪失後)に支給を受ける賞与や出向社員・役員の給与等の取り扱いなど、保険料徴収の算定基礎から除かれているケースもある。
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過去にとらわれない制度の改正が必要 |
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過去から指摘されながらも、深い論議がされないままに今日に至ったものが他にも数多くあるのではなかろうか。
世界に誇る健康保険制度を維持・発展させるためにも、被保険者の真の納得を得るためにも、古い慣習に囚われない、合理的で公平性の高い制度への見直し・改正を、強く進めることが必要ではないか。 |
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(T・N) |