広報誌「かけはし」

■2003年8月 No.383
時評

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慢性病時代への処方箋
 
扇谷茂樹医学博士


 「慢性病時代への処方箋〜セルフメディケーションと薬食同源への誘い〜」をテーマに、国立療養所南京都病院研究検査科の医学博士・扇谷茂樹氏による保健師連絡協議会研修会が7月25日、開催されました。


自分の健康は自分で
サプリメントより食

 中国料理には料理が薬の役割も担うという考え方があるように、中国医学と西洋医学では病気に対する基本的な考え方が異なります。健康と病気の二元論で分ける西洋医学に対し、中国医学には「未病」という考え方があります。これは将来発病する危険性を有している状態で、正しく対処すれば健康に戻るという特質があります。
 生活習慣病予防の基本は「食」。サクセスフルエイジングを支えるものは「食」と「生き甲斐」です。これからは国民一人ひとりが自立し、自分で自分の健康を考える「セルフメディケーション」の時代が到来します。生活習慣病などの慢性非感染性疾患には、食生活スタイルが重要な意味をもっています。例えば、骨粗少症ではカルシウム不足や偏食のほか、塩分の過剰摂取もカルシウムが尿中に排泄されるので、危険因子とされています。
 最近、特定保健用食品が人気ですが、足りない栄養素はとりあえず補って済ます傾向には警鐘を鳴らしたい。何故なら人間には自分に何が足りないか正確に自覚できないからです。サプリメントよりは適切な時期に、適量を選んで食べる、食環境を整えることが重要。ビタミンやカルシウムなどの過剰摂取を心配する人がいますが、10倍量以上を長期間摂るなど、極端なことをしない限り、人間の体は摂りすぎても受け付けませんので、過剰摂取の心配は不要です。

食べ合わせに要注意
薬食同源で健康に

 もう一つ、注意したいのが薬の「食べ合わせ」。子どもに薬を飲ませる際には、飲みやすくするため、牛乳やジュース、蜂蜜などに混ぜて飲ませることがありますが、牛乳は何でも包み込んでしまう性格があり、便秘薬など多くの薬で薬効が発揮されない場合があります。また、味が悪くなって、子どもが薬嫌いになる可能性も。グレープフルーツジュースは肝臓の薬物代謝酵素を抑制するので、薬が効きすぎるなど、いろいろな食べ物が薬に作用することがあります。さらに、食べ物と食べ物の食い合わせについても 注意が必要です。例えば魚卵と漬け物は有害物質が作られますが、ビタミンCを一緒に摂ればこれを克服することができます。
 「医食同源」は本来「薬食同源」ということばでした。食べ物は百薬の長です。命を養い、体を支えるのは食事です。食こそ良薬という、薬食同源の考え方こそが本当の予防医学の基本です。賢い食生活は1日3食、規則正しく、朝昼夜の割合は3対4対3が理想。そして1日30品目、一汁三菜をよく噛んでゆっくり食べること。老化と栄養に関しては、高齢になれば腸からの栄養素の吸収が極端に減るので、一層老化が進行します。高齢者ほど、沢山・楽しく食べることをおすすめします。
 

骨粗少症
扇谷氏はこの表記を推奨している。