広報誌「かけはし」

■2003年2月 No.377
時評

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「アルコール依存症」について
 
平野建二所長


 「アルコール依存症〜職場における早期対応について学ぶ〜」と題した講演が1月28日、健保連大阪中央病院で開かれました。講師は新阿武山クリニック(精神・神経科)所長の平野建二氏。講演に先だってグループワークを実施、その発表と講評も行われました。


アルコールは依存性薬物

 多くの人がアルコール依存症を誤解していますが、その症状はたったひとつ「飲酒のコントロール障害」です。つまり、飲み過ぎるコントロール障害が中心で、それに「身体合併症」、家庭や職場など「社会的障害」、うつ・自殺などの「心理的障害」といったさまざまな問題が絡み合うのです。
 コントロール障害に関する誤解として、飲み過ぎる原因を「ストレス・悩みがあるから」「寂しいから」「失恋したから」だろうと理由付けしがちですが、それはきっかけに過ぎません。また「意思が弱いから」「責任感がないから」「性格が弱いから」というのは最も多い誤解です。
 アルコールは依存性の薬物であり、飲酒をする人はだれでもアルコール依存症になる可能性がありますが、しかしすべての人がなるわけではありません。  依存を進めやすい条件として「身体依存がつきやすい素質、飲める体質」(遺伝病ではない)、「若年からの飲酒」、「日常的な飲酒」(加速度がつく)、安定剤や睡眠薬など「他の依存性薬物の乱用」、「胃切除」、そしてホルモンの関係により「女性は男性よりも依存がつきやすい」ということがわかっています。その他「環境・文化・神経症・うつ病など」、が挙げられます。

アルコール依存症の治療・回復

 アルコール依存症になった場合、「節酒は不可能」「一度できた依存体質は元には戻らない」「断酒しても一杯飲めば、再発する」。ですから治療・回復には断酒を続けることしかありません。依存の進行を登山に例えると、飲酒を促進する要素(登山口)はたくさんあります。そこに生物学的変化が加わりどこから登ったかにかかわらず、最後は共通した依存症になります。回復はその反対で、最初の道はひとつ断酒です。そのうち個性、そして色々な生き方が出てくるんです。

「事例」をもとにグループワークが行われた

 

グループワーク発表内容の講評

 事例の場合、肥満と、肥満による脂肪肝が絡んでいますが、アルコール性の肝障害とみると、それだけで依存症としては中期の終わりといえます。
 アルコール依存症は家族全体を巻き込む問題で、家族も病的になり、最終的には本人の依存を支えることになり、進行していきます。
 ですから、より健康な家族の治療からはじめて、家族を変えていきます。それによって自分の飲酒問題を直面せざるを得なくなり治療に出てくるんです。
 保健師の立場では本人の同意なく家族を呼び出すのは難しく、限界があると思いますが、まずは文献やパンフなど職場でよりたくさんの情報提供をすることが重要です。