広報誌「かけはし」
■2001年5月 No.356
◆◇◆ 死亡率トップの肺がん ◆◇◆
中央病院 市民教室 4月から「がんシリーズ」


▲正岡 昭 院長
4月から当病院市民教室では、「がんシリーズ」をテーマに開催することになりました。その第1回として「死亡率第1位の肺がん」というタイトルで、私がお話ししました。
 死亡率の移り変わりを見ると、がんが着実に増加して、1980年にトップに立ち、その後も他疾患との差をぐんぐん広げてきています。
 次にがん全体の中で、各臓器がんの死亡率の推移をみてみましょう。男性では胃がんが低下し、肺がんが上昇して1993年には、胃がんを追い越しています。また肝がんや大腸がんも上昇して、第3、4位を占めています。
   女性では、男性にくらべ、各臓器がんの死亡率はずっと低く位置しますが、胃がん・子宮がんが著しく低下しているのに対し、大腸がん、肺がん、乳がんの死亡率が上昇を続け、2、3、4位を占めています。
 このようにがんの死亡率は時代とともに変動しており、現在肺がんがその第1位を占めています。(図1)


▲図1 死亡率の推移(昭和5年〜平成9年)
   
●患者数1位は胃がん
 
表1のように男性で最も死亡者の多い肺がんが、罹患者数では胃がんに大きく引き離されているのはどういう理由によるのでしょうか。
 女性の乳がん、子宮がんは以前から70%を超える高い生存率を示していましたが、胃がん・結腸がんも近年著しく生存率を高め、ほぼ70%に達しています。
 これに対し、肺がんは、徐々に生存率を高めてきてはいますが、現在でもせいぜい30〜40%にとどまっています。つまり肺がんは、乳がん、子宮がん、胃がん、結腸がんにくらべて治りにくいがんなのです。それが罹患数が少ないにもかかわらず、肺がんが死亡率第1位に位置する理由です。
 しかし、これからはどうなるのでしょうか。男性では罹患者数においても肺がんが胃がんを抜くと予測されています。女性では結腸、乳房、胃に続く第4位です。両性を合わせると、肺がん・胃がん・結腸がんの3者がほぼ拮抗した数になります。ですから肺がん死亡者はダントツになると予想されます。また注目しなければならないことは、 2015年には、がん罹患者数は男女合わせて88万人と予測され、現在の44万人のほぼ倍と考えられることです。がん対策が緊急の検討課題であることを示しています。
部位 羅患数
  全部位 251,919
188,082
1 64,614
33,377
2 結腸 30,958
22,387
3 気管、気管支および肺 36,590
13,832
4 肺よび肺内胆管 23,467
8,841
5 乳房 -
28,086
6 直腸、直腸S状結腸移行部および肛門 16,388
9,671
7 子宮 -
17,013
8 膵臓 8,885
6,947
9 胆のうおよび肝外胆管 6,937
8,476
10 食道 9,255
1,988
11 前立腺 10,940
-
12 膀胱 7,886
2,697
13 悪性リンパ腫 5,895
4,620
▲表1 各臓器がん羅患数
   
●転移しやすい肺がん
  さてがんのうち死亡率第1位に躍り出た肺がんですが、その特徴をかいつまんで説明しましょう。
 肺がんは気管支粘膜から発生するがんなので、気管支粘膜のあるところ、どこでも発生します。つまり肺門部の太い気管支にも、末梢の細い気管支にも発生します。前者は肺門型、後者を肺野型といっていますが、肺門型ではがんは気管支の内腔に向かって発育します。ですから、がんが大きくなって気管支の内腔を閉塞するに至るまでは、レントゲン写真にうつらないのです。その代わり、がんの表面の細胞は気管支内腔に脱落をくり返しますから、血痰が出て、喀痰の細胞が陽性になります。
 一方、肺野型は症状を伴わず、レントゲン写真で腫瘤(塊)を作ります。ですから検診でみつかるのは、このタイプのがんで、肺がんの中では多数を占めます。
 肺がんが治りにくい大きな理由は、転移しやすいということです。リンパ腺にも広く転移しますが、血行性にも、脳や骨、肝などに早期から転移してきます。ですからまだ転移のない早期に発見して治療に結びつけることが必要です。
 肺がんの治療法としては、何といっても手術が第一です。手術の成績は通常5年生存率で評価しますが、当然のことながら、早期にみつかったものは良好です。
 肺がんを克服するには、まず早期発見が必要です。予防には禁煙が最も有効です。図2は各種のがん発生に対する喫煙の寄与危険度を示します。肺がんは喉頭がんについで非常に高い値を呈していることに注目してください。
  ▼図2 がんの部位死亡におよぼす毎日

●観察人:1,709,273人 ●観察年:昭和41年〜57年
●( )内の数字は、死亡数