広報誌「かけはし」
2001年3月25日 No.354
   
Q 「腰椎分離症の治療法は?」
56歳の作業現場で働く男性です。最近、両方の足がしびれ、足の裏やつま先に異常があり、歩くときにふわふわした感じがするようになりました。その後、腰が痛くなり、病院でX線写真の結果、腰椎分離症とわかり、さらにMRI検査で骨が少しずれて神経が出ているといわれました。治療法などご教示ください。
(堺市・T生)
<答える人>
健保連大阪中央病院
整形外科医師
名和 厳 氏
A  腰椎は全部で5個の椎骨が積み重なってできていますが、それぞれの椎骨は腹側では椎間板を介して、背中側では椎間関節を介してつながっています。
 腰椎分離症とは椎間関節の近くの骨にひびが入って隙間のできた状態です。原因には諸説ありますが、後天的な要因が大きいのではないかと考えられています。すなわち椎骨が十分成熟した骨になっていない成長期に、激しいスポーツなど繰り返し腰に負担をかけることで、金属疲労のように椎骨にひびが入ってしまうのです。特別まれな疾患ではなく、総人口の5%前後に存在するといわれています。
 
 本来つながっているべきところに隙間ができているのですから腰椎分離のある人は基本的には腰に弱点があると考えられます。重い物を持ったり、長時間同じ姿勢でいたり、テニス、ゴルフなど腰をひねるような動作は腰痛を引き起こしやすいので避けた方がいいでしょう。腰に痛みのある時はコルセットを着用して局所の安静をはかり、消炎鎮痛剤を服用して痛みをおさえます。また、痛みがなくなれば腹筋運動やストレッチングをすることが腰痛の防止には効果的です。
 腰椎分離症に椎間板や靱帯の摩耗・ゆるみが加わると腰椎分離・すべり症という状態になることがあります。腰椎を真横から見た場合に「骨がずれている」という表現がよく使われます。おそらくTさんの腰は分離・すべり症の状態だと考えられます。
 分離・すべり症の患者さんの多くは軽度のすべりにとどまっていますが、中にはすべりが進行して近くを通っている神経が圧迫されてしまう場合もあります。
 腰椎には足や太もも、あるいは膀胱や直腸に行く神経が通っていますので、神経が圧迫されますと下肢の神経痛やしびれ・麻痺が起こりますし、ひどくなると歩けなくなったり尿や便を失禁することもあります。
 神経痛だけでしたら消炎鎮痛剤やブロック注射などで保存的に治療することも可能ですが、麻痺や歩行障害の症状が出てきたら手術を考えなければなりません。神経の圧迫を取り除いて、椎骨を固定する手術が行われます。
 Tさんの場合、神経の圧迫による症状があるようですので保存的な治療で効果がないのであれば手術も念頭に専門医を受診されることをおすすめします。