広報誌「かけはし」
2000年9月25日 No.348
時評
 ●診療報酬のあり方を問う
 

 昨年6月時点の医療機関の経営状況を示す医療経済実態調査によると開業医の収益は、診療報酬収入から医薬品代や検査費、人件費などの費用を差し引いた平均月収は236万9千円となり、97年9月の前回調査に比べて18.7%増加している。
 ちなみに人事院は8月15日、今年度の国家公務員の給与改定について、月収で過去最低の平均0.12%の引き上げとするよう国会と内閣に勧告した。
 内容は、扶養手当は若干、引き上げになるが、基本給のアップを見送り、ボーナスも0.2ヵ月分引き下げる。このため、年間給与は平均1.1%(約6万9千円)減となり、2年連続のマイナスとなる。
 これで、一般職の給与は平均年齢40.5歳で、37万6千円となる。
 先に述べた開業医の月収236万9千円とどうしても比較してみたくなる。
 さらに大蔵省の試算では人事院勧告を完全実施した場合、今年度予算で見込んでいた国庫負担額より950億円減る見通しだそうである。加えて地方公務員の給与が国に準じて改定された場合は、地方自治体の負担も1650億円減ることとなる。
 不況にあえぐ民間企業はもとより国や地方自治体の財政難の中で実に涙ぐましい努力をしている。
 さて、このような社会経済環境下における診療報酬体系はどのような方向に進もうとしているのだろうか。
 昭和2年に健康保険法が施行された時から医療費は「医療料金」ではなく、「診療報酬」と呼ばれており、今日でも当時の骨格が基本的に維持されている。この診療報酬は中医協で審議され決定されるのだが、その歴史を振り返ると、昭和36年3月医療費単価1円アップでの自民党と日本医師会による政治的決着、昭和40年1月、神田厚生大臣による医療費引き上げの職権告示、中医協の審議をめぐる昭和46年7月の保険医総辞退、近くは、今年4月の改定をめぐり診療側の圧力で、政治決着がなされた。
 このように診療報酬改定には政治的な要素が絡んでいるので国民を無視した改定であるという印象が強いのである。
 ここ40年ほど続いている政治の世界の延長からはもう卒業してもよいと思う。
 そこで、政治的な利害関係や力関係の存在しない第三者的機関を作り制度、政策を検討したうえで新たな診療報酬を決定することが出来ないものだろうか。
 日常的に多発する医療事故、歯科国家試験問題漏洩事件等々、最近の医の世界はどうなっているのか。
 医は仁術であり、算術ではないということをよく考える時期に来ているようである。                     (S.S)