広報誌「かけはし」
2000年8月25日 No.347
時評
 ●薬剤特例免除と老人外来医療費
 

 厚生省が7月17日発表した「99年度保険医療費の動向調査」によると、総額28兆5,000億円のうち、41.3%に当たる11兆8,000億円が老人医療費で、前年比で被用者保険がマイナス1%であるのに、老人分は8.4%、うち外来は10.3%の伸びであった。この大幅な増加は、98年9月の老人薬剤一部負担を国が肩代わりする「特例措置」による影響であるとしている。その裏づけとして、4月〜6月(特例実施前)の医療費は8.8%の伸びを示し、実施後10.7%伸びたと報告している。特例措置の最大の理由は、当時日医が反発を強めていた「外来患者の受診抑制」に対する政治的妥協であったが、措置実施前にはすでに一部負担制定以前の状態になっていたのである。
 この特例措置の効果について関連づけられる、政府機関による調査結果が、最近発表された。その一つは、中医協が行った「医業経済実態調査(99年6月)」によれば、前回調査の98年9月と比べ医業収益は、一般病院で3.1%、診療所で1.3%増加したとしているが、注目すべきは外来患者数は一般病院で13.1%、診療所で9%も増加したと報告している。このことは特例措置をしなくても医業収益は若干増加し、とくに外来患者は著しく増加していたことを医業調査のなかでも検証したことになる。
 次に2000年厚生白書―「21世紀の高齢者像」―によれば、97年老人(65歳以上)世帯1人当たり年間所得は、勤労世帯と遜色ない水準に達し、消費の伸びは現役世代より大きいと述べ、高齢者を一律で経済的弱者とする発想は改め、応分の負担を求めないと、勤労世代や企業の負担が一方的に急増するとしている。この特例措置に伴う国の負担は、健保法廃案によりさらに延長され、次期国会での成立は早くて12月と言われている。もしそうなれば、総額3、400億円の負担となり、さらに負担額は2年後の精算拠出金にも及ぶことになる。
 前記三つの調査報告から今回の「特例措置」について、国民はどう受けとめるのだろうか。巨額の負担と抜本改革を先送りしてまでやらねばならなかったのだろうか。
 ところで懸案の改正健保法が成立すれば、「特例措置」に替えて一部負担は一割定率(上限つき定額)となるのだが、果たして上昇を続けている老人医療費は沈静化するのだろうか。
 診療報酬体系の条文は4月に全文改定され、「入院医療」については相当画期的な改定となったが、「外来」は抜本的な改定には全く手がつけられず、薬価引き下げの財源は、小病院と診療所の主として内科領域に配分するという旧来の手法がとられたため、外来の上昇気流は収まりそうにない。今後特に老人外来医療費の動向に注目したい。                                       (Y・H)