広報誌「かけはし」
2000年7月25日 No.346
健康相談どないしたん?
   
Q 「痔瘻(じろう)、放っていてもよいか」
 痔瘻(じろう)と診断されて1年以上になる40歳の男性です。痔瘻を完全に治すには手術が必要と、友人から聞かされていましたが、そのときは手術はなく、外来で暫く様子をみただけで、今日に至りました。現在は、痛みなどの症状はほとんどありませんが、このまま放っておいてもよいのでしょうか。ご教示ください。       (池田市・M生)
<答える人>
健保連大阪中央病院
外科医長
山口 時雄先生
   
A 痔瘻について
痔瘻は、痔核(いぼ痔)、裂肛(切れ痔)と並んで、代表的な3大肛門疾患の1つです。痔核、裂肛の大半の患者さんは薬物による治療が第一選択となりますが、ご質問のように痔瘻の患者さんは原則手術が必要です。
 さて、痔瘻の原因は、肛門皮膚と直腸粘膜のジグザグのつなぎ目(歯状線)にある肛門小窩というくぼみより細菌が周囲組織に侵入することで起こってきます。細菌の進入により急性の膿瘍を形成した状態が肛門周囲膿瘍(肛門周囲の腫れ、痛み、発熱など)と呼ばれる状態です。肛門周囲膿瘍は、抗生物質等の保存的治療は一般的に無効で、切開排膿が必要とされます。その後に、膿瘍は軽快し瘻孔の残存した状態が一般的に痔瘻と呼ばれる状態です。ただ、正確なデータ(何%が?)はないようですが、必ずしも肛門周囲膿瘍の全ての患者さんが痔瘻になってしまう訳では無く、切開排膿のみで完治する方も多いようです。ご質問のM生さんも、肛門周囲膿瘍の切開後に痔瘻の可能性を示唆されたのでは?と推察いたします(急性の炎症を伴わずに慢性に経過、痔瘻を来す方もいらっしゃいますが……)。
 実際に痔瘻の状態であるのかどうか、一度早めに専門医を受診されては如何でしょうか?
 痔瘻であることがはっきりすれば、治療は原則的に手術が必要です。何故手術が必要かといえば、@膿汁による下着の汚染など不快な症状、A急性炎症を合併した場合、糖尿病などの基礎疾患をもっていると重篤な状態(Fournier's syndromeと呼ばれています)に陥る可能性のあること、B頻度は多くありませんが癌の合併(痔瘻癌)をきたす可能性があることなどによります。一方、以前は手術以外に治療する方法が無いと考えられていましたが、最近では非手術的治療(Seton法など)も試みられており、良い成績も報告されています。また、痔瘻と一口に言っても、その部位、タイプにより手術方法、入院の要否、1回の手術で治癒可能?などは様々です。
 一度専門医の診察を受けられた上で、ご自分の状態、必要な治療などについて十分に説明を受けられることをお勧めします。