広報誌「かけはし」

■2018年6月 No.561
時評

国民皆保険がグローバル化?
〜外国人の増加に現実的な対応を!〜

 この春の観光シーズン、京都や奈良など関西の観光地は早めの満開を迎えた桜を楽しむ外国人観光客でにぎわった。2017年に日本を訪れた外国人観光客は2169万人。過去5年間で2.6倍という急増ぶりだ。経済効果は大きく、訪日ビザの緩和などの観光戦略が功を奏した形だが、同時に外国人が絡む犯罪やトラブルなど負の側面も目立つようになり、“水際”管理の強化も求められている。
 医療保険に携わる身には、社会保険にかかわる外国人のトラブルも関心事だ。最近では、書類の偽造による海外療養費の詐取事件が摘発されたほか、在留資格の不正取得で母国の家族を国民健康保険に加入させ、日本で高額医療を受ける例や、医療費未払いの増加なども報道で指摘されている。
 しかも、流動性が高い外国人が相手だけに、トラブル防止という面では決め手に欠くのが現状だ。海外療養費の詐取事件では、パスポートでの渡航歴の確認と海外の医療機関への問い合わせの同意書が義務付けられたが、「渡航歴がある」=「不正でない」とはならないし、法令の異なる海外医療機関に保険者が直接、確認するのも困難だ。
 この3月には、海外に居住する被扶養者の資格認定について通知が出されたが、これも悩ましい問題だ。外国人も含めて国内居住者しか加入できない国民健康保険と異なり、健康保険法には“水際”という概念がない。このため、被保険者の一定以上の親族で、扶養関係等の条件を満たせば、海外に永住する外国人にも加入の道が開かれている。
 今回の通知は、適用事業所との結びつきが弱い一部保険者で起きた問題への対応と聞くが、居住国の公的機関が発行した戸籍や収入の関係書類に加え、認定対象者の現況申立書の提出を求めた。しかし、制度も言語も異なる外国の居住者について、保険者が国内と同レベルの審査を行うのは現実的でないし、日本の生活費を反映した収入基準を海外居住者にまで適用するのも合理性に欠ける。
 現在の健康保険の仕組みは各時代の変化に対応し、ルールが固まってきたものだ。昭和56年の海外療養費の制度化まで給付は国内医療に限定されており、外国人が母国の縁者を被扶養者とすることまで想定していたとは考えられない。その海外療養費も、日本企業の海外進出や海外旅行の増加に対応したものだろう。
 また、被扶養者となっても75歳に到達すれば国内限定の後期高齢者医療制度しかないわけで、不正防止以前の問題として、居住国の社会保障でカバーされるべき海外永住者の加入まで認めた被用者保険の制度には強い違和感を覚える。保険制度間で、保険料や税金による巨額の財政調整を行う現代ではなおさらだ。
 17年10月現在の外国人労働者数は128万人で、5年前の1.9倍と、観光客と同様、大きな伸びとなった。しかし、これは少子高齢化に伴う労働力不足を、技能研修の拡大などで補ってきたことが要因となっており、日本側の事情に負うところが大きい。
 少子高齢化の根本的な問題は、国の経済を支える働き手が不足し、社会が活力を失ってしまうことだ。今後の日本を考えると、外国人労働者を社会の支え手として、一層、認識せざるを得ない時代がやってくるのは間違いない。
 財源面での手当てだけでなく、負担する側が納得でき、現実的かつ持続可能な社会保障制度の整備もまた難しい時代を切り抜けるための重要な制度インフラになると思うのだが、いかがだろうか。
  (K・F)