健診結果の見方

3 肝機能の検査

■ 肝臓は体内の化学工場

大切なことを言い表す言葉として「肝腎」という言葉がありますが、これは、肝臓と腎臓が体の中で大変重要な役割を担っていることからきています。その中で肝臓は、体内の化学工場とも言われるように、小腸から送られてきた栄養素を分解・合成して血液中に送り出したり、余分な栄養素の貯蔵、アルコール、ニコチンなどの分解や毒素の解毒作用、さらに胆汁の生産、赤血球の分解など多くの機能を担っているため、検査項目も多くなっています。
実際の検査ではこれらの検査項目のいくつかを組み合わせて行い、結果については、一つ一つの検査結果をみるよりも、全体をみて総合的に判断されます。

■ 肝障害の原因と進行

肝障害の大部分は、ウイルス肝炎によるものです。特に、B型とC型ウイルス肝炎が最も多く、その一部は慢性肝炎となり、やがて肝硬変となって肝がんに進行していきます。原因の一部に、アルコールによるもの、薬によるもの、自己免疫によるものがあり、成人男子に多い脂肪肝は、アルコールと栄養の過剰摂取によります。
検査では、ウイルス肝炎かどうか、ウイルス肝炎の種類はどうか、肝細胞の破壊の程度、慢性化していないか、肝硬変になっていないかなど、調べます。

■特効薬なく、予防が第一

病気になっても症状が出にくいことや感染しても気づかないことが多く、「沈黙の臓器」とも言われます。肝臓は丈夫な臓器ですが、症状が出て異変に気づいたあとでは中々元に戻りません。
特効薬はないため、予防が第一になります。自分の健康状態をよく理解し、日常の健康管理(食事・アルコール・運動・睡眠)に活かしていくことが何より大切です。

3ー(1)  GOT (AST) 肝臓障害や心臓の異常を調べる

GOTは、多くの臓器、特に心臓、肝臓、腎臓、筋肉などの細胞に含まれる酵素です。
これらの臓器が障害され、細胞が破壊されると、GOTは血液中に放出され、血清中の値が高くなるため、肝臓のみならず、心臓や筋肉の破壊や壊死の有無とその程度をみることができます。
高値を示す病気には、肝障害、心筋梗塞、心筋症、骨格筋および甲状腺機能亢進症があります。

■ GOT値のおおよその目安

値 IU/l 判 定 対   策
8 未満 低 値 安静者、人工透析者、妊婦に見られる。特に心配なく経過観察で十分。
8〜38 正 常  
39〜89 軽度上昇 アルコール性肝炎、慢性肝炎、脂肪肝、肝硬変、心筋梗塞、
甲状腺機能亢進症でみられるため、医師の指導を受ける。
90〜499 中程度上昇 活動性慢性肝炎、急性ウイルス肝炎、薬剤性肝炎、胆道疾患等でみられ、
医師の管理・治療が必要である。
500 以上 高度上昇 急性肝炎、うっ血肝炎等でみられ、激性肝炎については入院治療を要す。
3ー(2) GPT (ALT)肝臓の異常を調べる

GPTはGOTと同様の酵素ですが、特に肝炎では敏感に値が高くなる傾向があります。正常値は 4〜43 IU/?ですが、値の判定や対策はGOTと同じです。
心臓にはあまり含まれておらず、GOTに比べてGPT値が大である場合は肝障害と考えてよい。

3−(3)  γーGTP特にアルコール性の肝臓障害の有無を調べる

肝臓をはじめ腎臓、膵臓の細胞の膜にある酵素で、アルコールや種々の病気で合成が高まり、血液中に出てきて血清中の値が高くなります。
高い場合の多くはアルコールによるものですが、この酵素はアルコールに敏感に反応し、しかも、肝臓、胆道に異常があると他の酵素より早く異常値を示すという特徴があるため、アルコール性の肝臓障害の指標となります。

■ γーGTP値のおおよその目安

値 IU/l 判 定 と 対 策
男性 86 以下
女性 48 以下
正 常
男性 87〜499
女性 49〜499
アルコール多量摂取の場合、適正量を心がける。まれに肝炎、肝硬変の発症 が見られる。
薬物による肝障害の有無については他の検査結果をみて判定。
500 以上 入院して精密検査を受け、日常生活での医師の指導が必要となる。

検査法や検査機関によって正常値が異なることがあります。

3−(4)  アルカリフォスファターゼ(ALP)肝臓や胆道、骨の異常を調べる

ALPは、体内のほとんどの臓器や骨に含まれている酵素ですが、主に、肝臓を経て胆管や十二指腸に、また、骨を経て胆汁中に排出されます。
GOT、GPTが正常値であってもALPが高値のときは、骨疾患が疑われ、GOT、GPT、ALPともに高値のときは、肝臓・胆道系の疾患が考えられます。
肝障害、特に胆汁の排泄が障害されている胆汁うっ滞(胆道閉塞、閉塞性黄疸、胆道結石、胆道がんなど)や、骨の病気(骨成長、骨肉腫など)、腸の病気(潰瘍性大腸炎など)で増加します。
肝臓、胆道、骨、小腸にあるALPは、同じ酵素でもそれぞれ蛋白質の構造が異なるため、健診でALP値が高い結果が出た場合は、これを精査することによって、どの組織が悪いのか判明します。

■ ALP値のおおよその目安

値 IU/l 判  定 対   策
354 以下 正 常  
355〜400 軽度上昇 必要により、肝機能、アイソザイム分析、超音波検査を実施。
極めて軽度で他に異常がない場合は、経過観察する。
400 以上 高度上昇 胆道がん、胆石、胆がんなどの疑い。
入院して調べることもある。
3−(5) 総たんぱく (TP)肝臓・腎臓の異常をみる

総たんぱくは、血清の中にあるアルブミンやグロブリン等のたんぱくの総称で、肝臓でのみ合成され、腎臓でろ過されて、体内で利用されます。
肝機能障害など起こるとこの値が低くなるため、血清中のたんぱく質濃度を調べることで、肝臓や腎臓の機能異常をみようとするものです。
たんぱく値の異常は、体内でのたんぱくの合成異常や分解の異常、消費または漏出が原因で起こりますが、たんぱくのうちでどのたんぱくの増減があるかは、さらに分画することによって知ることができます。高値では、悪性腫瘍、肝硬変、慢性肝炎、多発性骨髄腫など、低値では、ネフローゼ症候群、肝障害、栄養不良などが疑われる疾患であり、この濃度結果から、必要に応じて種々の詳しい検査をします。

■ 総たんぱく値のおおよその目安

値 g/dl 判 定 対   策
5 以下 低蛋白血症 分画を調べ、何が低下しているかを調べる。
軽度低蛋白血症 他の検査結果もみて判定。特に問題なければ経過観察。
6.5〜8.5 正 常  
軽度高蛋白血症 他の検査結果もみて判定。特に問題なければ経過観察。
10 以上 高蛋白血症 体の状態等みて再検し、必要により分画を調べる。
3−(6) 総ビリルビン (T-Bil)黄疸の程度を測る

総ビリルビンは、寿命を迎えた赤血球中のヘモグロビンの分解産物で、さらに肝臓で分解されて胆汁として排泄されます。肝機能障害があると、この値が上昇します。
血液中にビリルビンが増加すると皮膚が黄色になり、これを黄疸と呼んでいます。黄疸は、この値が約2.0mg/Dl を超えた状態で、ビリルビンが代謝されと過程のどこかで異常が発生したことを示しています。

■ 総ビリルビン値のおおよその目安

値 クンケル単位 判 定 対   策
1.2 以下 正 常  
1.3〜5.0 軽度ビリルビン血症 肝機能、赤血球数などを調べ、異常なければ経過観察。
5.1 以上 中・高度ビリルビン血症 肝臓、胆管の精密検査を行い、10mg以上は入院精査。
3−(7) 硫酸亜鉛混濁試験 (クンケル試験) (ZTT)肝機能の異常を調べる

血清中のたんぱくの性質を調べる検査で、血清たんぱくの沈殿量で肝臓の状態をチェックします。たんぱくの性質を調べる検査としては、これとチモール混濁試験(TTT)が代表的で、いずれも血清中のたんぱくの1分画であるγーグロブリンを測定するものです。
血清たんぱくの7〜8割は肝臓で作られているため、肝機能検査の1つとして、慢性化や肝硬変の指標に用いられています。特に、肝障害が慢性化し肝硬変になるとγーグロブリンが増加するため、これを調べることで肝細胞や肝機能の異常がわかります。

■ 硫酸亜鉛混濁試験値のおおよその目安

値 クンケル単位 判 定 対   策
12.0以下 正 常  
12.1以上 異 常 慢性肝疾患、膠原病、骨髄腫等の病気を疑う。必要により精密検査。
古い結核など慢性の感染症でも増加するので既往症に注意。

高齢者で高くなる傾向があります。

3−(8) チモール混濁試験  (TTT)肝機能の異常を調べる

硫酸亜鉛混濁試験(ZTT)と同様に血清中のたんぱくの性質を調べる検査で、血清中のγーグロブリンの量をみるものです。
値が増加する病気には、慢性肝炎や肝硬変、A型肝炎、慢性感染症、膠原病などです。

■ チモール混濁試験値のおおよその目安

値 クンケル単位 判 定 対   策
4.0以下 正 常  
4.1以上 異 常 再検し、他の肝機能検査の値など参考に、必要により精密検査。

高齢者では高い値になることがあります。

3−(9) アルブミン  (Alb)肝臓・腎臓の異常を調べる

アルブミンは血液中の血清に最も多く含まれているたんぱく質です。80数種類ある血液中のたんぱくの5〜7割を占めており、肝臓でのみ合成され、腎臓でろ過されます。
アルブミンと、同じく血清中のたんぱく成分であるグロブリンとの比(A/G)は、基準値(正常)以上に高くなることは殆んどありませんが、肝臓や腎臓の障害があると値が低下します。疑われる疾患は、肝障害、慢性感染症、ネフローゼ症候群、多発性骨髄腫、栄養不良などです。

■ アルブミン値のおおよその目安

値 g/dl 判 定 対  策
3.5 以下 低蛋白血症 分画を調べ、何が低下しているかを調べる。
3.5〜5.3 正 常 他の検査結果をみて判定。特に問題なければ経過観察。
3−(10) 乳酸脱水素酵素  (LDH)      肝臓・心臓・血液などの障害のふるい分けをする

この酵素は体内のほとんどの臓器の細胞に含まれるもので、体内で糖がエネルギーに変わるときに働く酵素のひとつです。特に、肝臓、腎臓、肺、血液、筋肉、がん細胞に多く含まれます。
この値が上昇しているのは、これらの臓器のどこかに損傷があることを示しており、その箇所を特定するスクリーニング(ふるい分け)検査に用いられています。
心臓や肺の病気では、心筋梗塞、心不全、肺梗塞、肝臓の病気では、肝炎、肝硬変、胆道の病気、血液の病気では、白血病、リンパ腫、さらに悪性腫瘍などの疾患です。

■ 乳酸脱水素酵素値のおおよその目安

値 IU/l 判  定 対   策
120 以下 低 値 ときに正常者でも見られる。経過観察する。
120〜442 正 常  
442〜500 軽度上昇 慢性肝炎、肝硬変、腎炎、筋障害、軽い心筋梗塞など疑う。
500 以上 中・高度上昇 心筋梗塞、溶血、悪性腫瘍、白血病、悪性貧血などを疑う。

LDHが高値でもこれだけで病気を特定することは困難で、症状や他の検査と合せて総合的に判断することが必要です。