広報誌「かけはし」
2000年11月25日 No.350
なるほどタバコ学
   
  ●第4回「タバコの経済学」
  (財)大阪がん予防検診センター 調査部長 中村 正和
  タバコの代金の約6割は税金だと言われています。1日1箱250円のタバコを吸ったとして、150円が税金になり、1年間では5万5,000円の税金を納めることになります。タバコ税の点では、喫煙しておられる方は、余分の税金を納めて、社会貢献もしておられるように考えることができます。しかし、本当にタバコを吸うことが社会貢献になっているのでしょうか?
 国レベルでタバコの収支バランスをみると、確かにタバコは年間約2兆円の税収をもたらすほか、葉タバコ栽培やタバコの製造、広告費用など、全体で年間2兆8,000億円の経済効果を生み出すことが、国立がんセンターの試算(1996年)から明らかになっています(図1)。
 
図1.たばこ経済収益と損失(後藤公彦、1996)
   
  一方、医療費の増加や早期死亡による所得の損失など、タバコによる社会コストが年間5兆6,000億円にのぼり、国レベルでの収支は年間約3兆円の赤字になっています。わが国のタバコ消費量は年間約3,000億本ですので、喫煙者は1本吸うたびに、国に10円程度の経済負担をかけている勘定になります。
 ところで最近、健康保険組合の深刻な財政赤字がマスコミで頻繁に取り上げられています。主な赤字の原因は、急騰する老人医療費への拠出金による負担の増大といわれています。老人医療費増大の大きな原因は、老齢人口の増加にありますが、喫煙をはじめとする生活習慣の影響も無視できないことがわかっています。東北大学の辻一郎・助教授が行った研究によると、喫煙本数に比例して年間の医療費が増加し、1日に吸う本数が1〜14本の人では4%(51.3万円)、15〜29本では7%(52.6万円)、30本以上吸う人では12%(55.2万円)と、吸わない人(49.2万円)に比べて医療費が高くなることが報告されています。また、喫煙に肥満(BMI25以上)と運動不足(1日の歩行時間が60分未満)が重なると、医療費が35%(15万円)も増加することが明らかになっています。
 次に、企業の視点で、喫煙によるコストを算出したデータを紹介しましょう。アメリカのシアトル大学のワイス博士の研究によると、タバコを吸っている人を雇用した場合、1人当たり年間約55万円のコストがかかることが明らかになっています。(図2)
   
 
図2.喫煙による企業コスト
   
  全体のコストのうち、約40%を占めるのが喫煙による労働時間の損失です。喫煙している時間はニコチン補給のため仕事に従事していないというのが世界の認識です。勤務時間中の喫煙時間は個人差がありますが、平均すると1日30分といわれています。この試算では一部にパイプ使用者(1日の平均喫煙時間55分)がいることを考慮し、1日の喫煙時間を35分として労働時間の損失を計算しています。1日8時間、年間250日の労働条件とすると、喫煙によって失われる労働日数は約4週間(18.2日)にものぼります。
 イギリスのロンドンの下町イースト・エンドの区役所では、役所をあげての禁煙運動に取り組んでおり、2000年10月から喫煙する職員に対して1日30分の超過勤務を課す新方式の禁煙運動を導入することが報道されています(読売新聞2000年5月1日)。
 わが国の現行の医療保険制度では、タバコを吸っていても、吸わない人と同じ保険料を支払うことで済んでいます。また、喫煙状況に関係なく、勤務時間も同じです。これらは、「平等の中の不平等」といわざるを得ません。わが国では生命保険料の差別化に引き続き、医療保険でも、その財源確保を目的としたタバコの課税論議が始まっています。タバコ1本当たり3円課税すると、約1兆円の財源が捻出できるという皮算用です。
 タバコを吸うかどうかは最終的に本人の選択になりますが、公平性の議論から、保険料や労働時間において「負担の公平」が求められる時代になっています。